「漫画化することによってググッと理解しやすくなったと感じます」
「原作がさらに面白くなりました」
文春オンラインで半年にわたって連載され、累計564万PVという大きな反響を呼んだマンガ『うつ病九段』。このたび、電子版と紙版が同時発売された。プロ棋士の先崎学氏がうつ病になって将棋が指せなくなり、入院。1年間の休場を経て、現役復帰するまでを綴ったベストセラー手記を、気鋭の漫画家・河井克夫がコミカライズした。刊行を記念して、著者の河井氏に創作秘話をうかがった。
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リアリティを追求するのは止めよう
『うつ病九段』をコミカライズするとき、心掛けた、というほどでもないんですが、とりあえず原作に書かれていること以外、マンガでは描かないということを決めました。
原作は将棋棋士である先崎学さんの手記ですが、必要以上にリアリティを追求することは止めよう、と。たとえば、先崎さんの家の間取りや家族構成、入院していた慶応病院の様子、将棋会館の内部……細部を調べようとすれば、いくらでも調べられますよね。でも、それは一切しない、と。
先崎さんの奥様が登場しますが、原作では「妻」で「囲碁棋士」としか書かれていません。また、お兄さんについても、「優秀な精神科医の兄」としか記されていない。そこから想像して、キャラクターを作り上げました。だから「兄」にしても、主人公とは全然似ていない、なんだかかっこいいオジサマになってしまった(笑)。
自分の意図としては、「事実」を追求するよりも、よりフィクショナルな「文学作品」を目指しました。どういうことかと言うと、原作は闘病エッセイですから、主人公の内面の物語です。そこに僕の判断で「現実」を加えると、むしろ失礼にあたるんじゃないか。余計な情報を入れることで、「嘘になる」と思ったからです。
あくまで原作に忠実に、書かれていない部分はイマジネーションで埋めていく。これを基本にしました。
実際、慶応病院に通院歴のある女性が連載を読んで、「マンガに出てくるお医者さんが、私の担当医そっくりなんです。同じ人ですか? 」って尋ねられたことがあります。もちろん架空の人物ですが、そのときは「僕の想像が当たった!」と嬉しかったですね(笑)。