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『うつ病九段』精神科医の兄が語る「あの時、先崎学を救うには入院させるしかなかった」

「47歳の誕生日の翌日、私の体に異変が起きた」――うつ病になって将棋を指せなくなり、休場を余儀なくされたプロ棋士の先崎学九段。“うつ”との壮絶な闘いを綴ったベストセラー手記『うつ病九段』が漫画家・河井克夫によってコミカライズされ、文春オンラインで連載中です。

 1カ月にわたる精神科病棟での入院生活を終え、自宅でリハビリを続けながら、将棋の稽古を続ける先崎さん。果たして現役復帰は叶うのか……物語はいよいよ終盤のクライマックスへと差しかかっています。

 発病以来、先崎さんを陰で支えてきたのが、「優秀な精神科医」として物語にも登場する兄、先崎章さんです。埼玉県総合リハビリテーションセンターや東京福祉大学で医師として勤務する章さんは長年にわたり、さまざまな精神疾患の患者を診てきました。先崎さんを襲った“うつ”という病について、専門医としての見解をうかがいました。

作中での章さん。先崎九段を助ける重要な役割を演じている

一目見て、「これは駄目だ」と思った

――うつ病を発症した直後の先崎さんの様子は、医師の目から見ていかがでしたか?

 先崎章 原作に書いてある通りです。一目見て、「これは駄目だ」と思いました。それまでも将棋で負けが込むと、落ち込むことはありましたが、今回は全く違う。いわゆる「抑うつ状態」ではなく、脳の異変から来る「うつ病」だとはっきり判りました。

――一刻も早く入院することを勧められていますが、それはなぜですか?

 先崎章 自殺を防ぐためです。非常に危ない状態でした。とにかく、じっと座っていられないんです。ちょっとしたことで、自分を大切にしない行動に出る危険があった。一方で、どんどん仕事が入ってきて、義理人情から、あるいは正しい判断ができず、断ることができなかった。世間から隔離するためには、病院に入れるしかありません。

精神科への入院をしぶる先崎九段を説得する章さん