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対局をチャンバラで表現

 将棋に関しては、僕はルールと駒の並べ方くらいしか知りません。ですから『3月のライオン』や『月下の棋士』といった本格的な将棋漫画のように描くのは到底、無理。そこを追求するのは諦めようと思ったことも、原作に書かれていること以外描かない、と決めた理由のひとつです。むしろ、「将棋がわからない人にも面白いマンガ」を心掛けました。

 とはいえ、将棋のシーンでは苦労しました。なにしろ棋譜を見ても、どっちが優勢なのかさえ分からない。苦肉の策で、対局をチャンバラにして表現したりしました(笑)。

まだ勝負勘が戻っていな主人公が、後輩棋士と真剣勝負に挑むシーン

僕だってうつ病予備群

 うつ病を描くことについては、精神病理学系の本が好きで読んでいたので、病気への理解度は高い方だったと思います。僕の周りでも“うつ”の人は結構いました。ですから、うつ病の方が読んでも失礼がないように、という配慮はしたつもりです。でも、思いがけず反応がよかったので、安心しました。まあ僕も、ずっとうつ病予備群みたいなものなので……。

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 ただ、先崎さんの場合、わりと能動的ですよね。治療の一環とはいえ、いろいろ出かけて行ったり、ボクシングをしたり、結構アクティブでしょう。そういった個別の症状についても、余計な説明は交えずに、原作通りに描いたつもりです。

 あと、基本的に、あの主人公は「無表情」なんです。ストーリー上、怒ったり、笑ったり、焦ったりしますが、基本は無表情。そこは終始一貫していますね。

病棟から外出し、カフェでコーヒーを買う主人公

松尾スズキとの共作で鍛えられた

 僕はもともと「ガロ」でデビューしたときから、変なマンガばっかり描いていたんです(笑)。別れ話を切り出した男の背中に画鋲を貼る女や、つきあっている彼女の鼻の穴が気になってしょうがない男など、不条理なナンセンス・ギャグを発表していました。

 ただ、原作ものはわりと早くから手掛けていたんです。2004年に出した『日本の実話』は、実際の話をマンガにしたもの。「マガジン・ウォー」というエロ雑誌で連載していて、編集部が集めてきた嘘か本当かわからない裏ネタをもとに、漫画に仕立てたものです。

 あと、松尾スズキさんとの共著『ニャ夢ウェイ』も、コミカライズといえばコミカライズです。松尾さんの飼い猫が主人公のエッセイマンガですが、エッセイ漫画とは名ばかりの、いろんな、実験的な原作が送られてきて……考えてみると、そこでかなり鍛えられましたね(笑)。

 その延長上というか、それが高じて小説家・久生十蘭の短篇をコミカライズしようと思い、『久生十蘭漫画集 予言・姦』を発表しました。だから、どうやって絵にするんだ、という部分では、そこそこ自信はあったかもしれない。