「お前は完全に病気だ。異常だ! 俺がいつでもできて、ヤリたがる若者だとでも思ってるのか?」

 なぜ夫婦カンケイは難しいのか? ここでは結婚20年目の夫から、夫婦の営みを拒絶された女性弁護士のエピソードを紹介。スウェーデン発、国際的ベストセラーの翻訳版『不倫の心理学』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

女性弁護士・ヴェラはなぜ夫に拒絶されたのか…? 写真はイメージ ©getty

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夫に拒絶された日

 リビングからキッチンへ向かってガウンを整えながら、ヴェラは自分の体を完全にコントロールできていない気がした。悲しみにくれ酔っ払っている。酒を飲み始めた時の気分はアルコールで増幅されるといつもヴェラは言う。幸せならさらなる満足感と喜びにつながるし、怒りや失望も増幅される。

 土曜日の夜、ヴェラと夫のマルクスは夕食をとったところだった。すべて順調で、家族が揃い、ペッパーステーキのパセリバター添えとローストポテトを食べた。長女が美味しいサラダを作り、夫婦はワイン1本をシェアした。

 ヴェラはストックホルム中心部に事務所を構える大手法律事務所のパートナー弁護士だ。車道には新車が2台、食費は充分、まとまった休暇も取れる快適な暮らしだ。土曜日の夜はその夜のように過ごすか、友人夫婦とカップル同士でワインセラーからマルクスが選ぶ高価なウイスキーかワイン片手にディナーを楽しむことが多い。料理はたいてい夫の役目だ。凝った料理を作り、土曜日の朝には早くもマリネや煮込みの準備を始めたりする。ヴェラは料理にはあまり興味がないが、食欲は旺盛だ。

 夕食後、子供たちはスマホを片手にそれぞれの部屋に向かった。夫はソファに座り、ヴェラは引越してきた10年以上前にリフォームすべきだったバスルームに入っていく。タイルや洗面台はおそらく70年代のものだろう。でも今では自慢の空間となっているキッチンの改装を優先した。彼らにとってはリフォームされた立派なキッチンの方が格上で、バスルームはあるもので充分だと思ったのだ。

 ヴェラは黒のジーンズと濃紺のTシャツを脱ぎ、新品の下着だけを身につける。美しい下着が大好きなのだ。厚手の白いガウンを羽織り、バスルームを出るとはにかんだ笑顔で夫のもとへと歩き出す。ワインのおかげでいつもより少し大胆だ。スキンシップをとりたいと態度で示そうとする。結婚した夫婦がセックスをしなくなるとか、性生活がつまらなくなり、どちらもセックスを望まなくなるなどの言説を彼女は受け入れるつもりはない。それっぽいムードを作り出すことはさほど難しいことではない。情熱とセックスアピール、セクシーな下着と遊び心はヴェラそのものなのだ。

 誘うような笑みを浮かべてソファに滑り込み、夫に近寄る。願わくば自分が求めているのと同じくらい、夫からも求められたい。ガウンのベルトを軽く外し、胸を露わにする。興奮し、いたずらっぽい気分になる。胸元の開いたガウンの奥に隠されたところを見てもらいたい。夫の太ももに軽く手を置く。しっかりと、そして優しく。

「きれいだよ、ヴェラ。君が欲しい」それが夫から聞きたい言葉だ。寝室へこっそり入り、ドアに鍵をかけ、自分たちだけの時間を過ごしたい。子供たちは自室でスマホに夢中になっていて何も気づかないだろう。彼らももう大きい。自分のことは自分でできる。

 ことが終わったら夫婦でソファに戻り、土曜日の映画の続きを見る。満たされた幸せな結婚生活を送る。20年目の今も互いを求め合っていると確信する。それが望みだ。

写真はイメージ ©getty

 だが、そうはならない。

 それどころかヴェラが目の当たりにするのは太ももに手を置いた瞬間、リラックスしてテレビを見ていた夫が一瞬にして豹変する姿だ。たじろいだ夫は声を荒らげて言う。

「いったい何をするんだ?」