児童虐待、DV、ハラスメントなどが起こる背景には、加害者の過去の「トラウマ」が影響しているのではないか――。そう語るのはノンフィクションライターの旦木瑞穂さんだ。
2023年12月に刊行した『毒母は連鎖する~子どもを「所有物扱い」する母親たち~』(光文社新書)などで、家庭内で起こる“タブー”を調べていくと気が付いたことがあったという。親から負の影響を受けて育ち、自らも「毒親」となってしまう「トラウマの連鎖」こそが、現代を生きる人々の「生きづらさ」の大きな要因のひとつではないか。
今回は、自身の経験をもとに依存症マンガを描いたことがきっかけでマンガ家として活動し始めた三森みささん(31)に「トラウマの連鎖」について聞いた。宗教3世として生まれ、思春期に両親の離婚を経験した三森さんは、大学入学後に交際していた暴力を振るう「ヤバい」彼氏とどうして別れられなかったのか――。(全3回の3回目/最初から読む)
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共依存は連鎖する
自分を傷つける相手となぜ別れられないのか。それは三森さんだけでなく、両親の生い立ちにも関係していた。
前編でも触れたが、母方の祖父はアルコール依存症。賭け事や不倫をしてはトラブルを起こすような人だったため、祖母は非常に苦労したようだ。そんな父親を持つ三森さんの母親が結婚した相手が、宗教2世の父親だった。依存症とは、自分や家族の生活に不都合が生じているというのに、それをやめられないという状態に陥ることだ。父親は、明らかに宗教のせいで妻と離婚に至り、娘は精神疾患に苦しんでいるにも関わらず、宗教をやめられなかった。父親は宗教依存症だった。
三森さんはこう分析する。
「そんな両親のもとで育った私は、祖父と父を足して地獄で割ったような、アルコール依存症とギャンブル依存症と性依存症を抱え、モラハラとパワハラをする男性と付き合ってしまいました。母娘3世代に渡って男を見る目がなかったんですね。なぜかと言うと、見慣れてしまってるんです。自分の生まれ育った環境がそうだから、地獄に対する許容度が上がってしまっているのだと思います」
それに加え、思春期に両親の別居や離婚を目の当たりにし、ショックを受けた三森さんは、「別れるのは悪だ」という考えに囚われていた。
さらに、幼い頃から父親に宗教を強要されてきたため「他人のために生きなさい」という宗教の教えに則った父親の「利己心は捨てろ。お前が犠牲になれ」という教えに染まり切っていた。
「悲しいかな親の教えというものは、世の中にとっていいか悪いか、社会的にどうあるかなんて関係がなく、多くの子どもはそのまま受け取って学習してしまいます。だから私は『他人のために生きなければ自分は価値がないんだ』という人格を生み出してしまいました。本心では『そんなの嫌だ』と思っているため、精神がどんどん分裂していきます。私は通算年間100回ぐらいは『別れたい』と思っていたんですけれども、その度に宗教や親の教えは強迫観念となって頭の中に“神の姿”で現れて、結局ゆるしてしまうということを繰り返してしまったのだと思います」