自助グループの参加やセルフケアなどと併せ、こうしたさまざまな治療を10回(1回90分)ほど受け、徐々に過去のトラウマ体験に大きく振り回されなくなっていった。
「トラウマ治療を始めてから、不思議なことに、親にされて良かった記憶が出てくるようになってびっくりしました。虐待の種類にもよるんでしょうけれど、うちは100%悪いってわけじゃなかったんだなと。だからと言って、大人になってからも付き合い続けられるかどうかはまた別問題で、ニュアンスが難しいのですが、完全に許せているというわけではありません。理解はできるようになったかな、という感じですかね」
そこで筆者が「もしも両親に介護が必要になったらどうしますか?」とたずねると、
「18年も親の宗教や離婚に振り回された以上、介護はしたくないのが正直なところです。ですからお金を頑張って貯めています」
と答えて笑った。
「トラウマの連鎖」を止めるには
「トラウマの連鎖」を止めるにはどうしたら良いのだろう。三森さんは言う。
「一番はもう、自分が回復するしかないと思うんです。結局自分の幸福が何なのかわからないと、他人に幸福なんか与えられません。自分に余裕がなかったら、他人に対して余裕なんか持てないし、自分自身に安心・安全な土台みたいなのがないと、相手から搾取しないといけない心理状態から抜けることは難しいと思います」
三森さんの父親がそうだったように、「子どものため」「家族のため」と言っても、自分が満たされていない人は依存を招くだけになってしまう。
「そもそもなんで依存してしまうのか、それを辿っていくと、AC(アダルトチルドレン)である場合が少なくありません。親子関係って一番最初に作られる人間関係じゃないですか。親が不安定だと、子どもは他人の顔色ばかり窺ったり、他人をコントロールしようとしたりしてストレスを溜めまくってしまう。家庭の外で修正する機会があればいいんですが、日本の学校では教えてくれない。親が与えられない教育を学校で与えてもらえたら、今より連鎖することは防げるんじゃないかなと思います」
心に負った傷がトラウマになり、自分を守るため、生きるために人や物質、プロセスに依存する。その依存によって周囲にいる人を傷つけ、傷つけられた人はトラウマを負う……。依存することをやめられたら、トラウマの連鎖も止まる。
回復まで長い時間を要した三森さんだが、子ども時代にどんな助けが必要だっただろうか。
「まずは、正しい情報を知りたかったです。私は同世代に比べて早い段階からネットに触れていたと思うのですが、当時は今よりもずっと情報が少なくて、『親子関係に問題のある人間は一生精神がおかしいままだ』という誤った情報を見て苦しみました。また、現実で『私の状況を理解してくれる人はいない』という孤独によって精神疾患をひどく拗らせた私にとっては、『1人じゃない』ということを知ることが一番必要だったように思います」
現在もネット上には玉石混交な情報があふれる。自助グループや治療についての正しい情報は、10代でもアクセスしやすい場所にあってほしい。