鉄道車両にもブランドがある。カバンのルイ・ヴィトン、クルマのレクサスというような。ただし、鉄道の場合はブランドが表に出ることはない。鉄道車両メーカーが鉄道会社に納入すれば、鉄道会社の形式で呼ばれるからだ。たとえばJR山手線のE235系、東急田園都市線の2020系、相模鉄道の12000系などだ。

 これらはすべてJR東日本の子会社である「総合車両製作所」というメーカーが作っており、ブランド名を「sustina(サスティナ)」という。

 鉄道利用者は「今日はsustinaに乗ろう」とは思わない。ブランド名が呼ばれるのは、鉄道会社がメーカーを選定するときだ。なので意味的にはブランドというより「思想」が近い。たとえばトヨタの設計思想を示す「TNGA(Toyota New Global Architecture)」にあたる。

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JR東日本E233系(右)とE235系、どちらも総合車両製作所で、E235系は「sustina」を採用している(写真AC)

 なぜ鉄道車両メーカーにブランドが必要かというと、ライバルメーカーと差別化したいからだ。東急や東京メトロなどほとんどの鉄道会社は自社で車両を作らず、車両メーカーから買っている。そこに競争が生まれる。「当社はこんな設計思想で作っています。貴社の車両を作らせてください」と売り込むわけだ。

東急田園都市線の2020系、東急電鉄の新しい顔だ。これも基本構造は「sustina」(写真AC)

 総合車両製作所が「sustina」ブランドを作った理由は、同社が得意とするステンレス車体の利点をアピールするためだった。

ステンレスは硬いうえに腐食に強く、塗装も不要といいことづくめだが…

「sustina」はステンレス鋼を示す「SUS」と、持続可能という意味の「sustainable」を組み合わせた造語だ。「ina」で終るとラテン語の語尾になり、「環境」「女性」を意味するという。「sustina」は「銀色に輝き続ける女神」というわけだ。「ステンレス製車体」に対する総合車両製作所の強いこだわりを感じる。

東急目黒線の3020系、2020系を目黒線仕様にした車両だ(写真AC)
相模鉄道12000系、JR直通線、埼京線に乗り入れる車両だ。独特のデザインを採用し、客室照明は暖色系という異色の存在。これも基本構造は「sustina」を採用している(写真AC)

 鉄道車両の素材の歴史をたどると、始めは木造車体だった。木材は軽くて強度があり、加工もしやすい。客車も電車も台枠部分は鋼鉄、床や側面・屋根は木製だった。しかし木材の最大の欠点は「燃える」ことだ。

 1951年に起きた「桜木町事故」は架線が垂れ下がって車両の屋根に接触して火災が発生し、電車1両が全焼、1両が半焼して死者106名の大惨事となった。これ以外にも車両火災はたびたび起きており、燃えない車体を求めて自然と鉄道車両は鋼鉄製になっていった。