茨城県のひたちなか海浜鉄道は「奇跡のローカル線」と呼ばれている。
赤字だったローカル線を2008年に第三セクター化して黒字転換しただけでなく、近年ローカル線は採算などの問題から廃止危機を取りざたされるところも多い中、延伸事業が国から認可された。「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」にもとづいて、上下分離などの経営支援を促す事例は多いけれども、延伸計画を含めた鉄道事業再構築は初めてのことだ。
しかし筆者は「奇跡のローカル線」というキャッチフレーズに違和感を持つ。突然やってきた幸運ではないからだ。ひたちなか海浜鉄道が延伸まで至ったのは、乗客目線の改良、改善をコツコツと積み上げた結果だ。
ローカル線の活性化策として、観光列車を導入する路線もある。観光列車は特別な内装の車両、特別な食事、特別な体験を盛り込んだ列車だ。派手で、わかりやすく、目立つから、テレビの旅行番組に採用されやすい。しかし、ひたちなか海浜鉄道は観光列車の導入に消極的だった。
観光列車ではなく、地元の利用者と向き合ってきた
平日に通勤で乗ってくれる人は年間で500回以上も乗車してくれる。観光列車で500人の乗車を集めるより、定期客をひとりでも増やしたい。だからひたちなか海浜鉄道は、沿線の人々にとって「便利な鉄道」を追求してきた。
那珂湊駅に棲み着いた野良猫「おさむ」も、他社だったら「駅長猫」などとして持ち上げ、イベントやグッズを展開するところだ。しかしひたちなか海浜鉄道が「おさむ」を観光駅長として盛り立てることはなかった。吉田千秋社長が「猫には猫の生き方がある」と考えていたからでもある。そこが猫好きの共感を得たかもしれない。おかげでおさむは穏やかにあの世へ旅立ったし、妹の「ミニさむ」は今でも気ままに暮らしている。
そのひたちなか海浜鉄道で、昨年秋にレストラン列車を運行した。延伸をきっかけに、「便利な鉄道」から、「便利で楽しい鉄道」へ。大きなチャレンジだ。
ここに至るまで、ひたちなか海浜鉄道がいかに「ローカル線らしからぬ」地道な努力を続けてきたのかを振り返ってみよう。




