「ビール列車」「ボージョレ列車」などユニークな取り組みも行ってきた

 通勤通学客の利便性を高めてきたひたちなか海浜鉄道だが、観光輸送をないがしろにしたわけではない。

 開業した最初の1月1日には初日の出列車「サンライズ F あじがうら」(現在は急行あじがうら)を運転した。夏季にビール列車「湊線一番搾り号」を運行し、秋に「ボージョレヌーヴォー列車」を運行した年もある。どちらも地元の人々に鉄道を再認識し、親しんでもらうきっかけとなった。列車を貸し切って車内で演劇を上演するイベントも行われた。

 駅主体のイベントも多い。那珂湊駅で農協と漁協が共催する朝市を実施、大学生やアーチストによる「みなとメディアミュージアム」の展示場所を提供、JAF茨城支部によるひたちなか海浜鉄道車庫見学会などを受け入れるなど、それぞれ好評だ。旅行会社の団体ツアーも受け入れている。とくに2024年、長年活躍していた人気車両「キハ205」の引退に伴って実施したツアーは、鉄道旅行を品評する「鉄旅オブザイヤー」のグランプリを受賞した。

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 そもそも、ひたちなか海浜鉄道沿線には観光スポットが多い。

 那珂湊駅付近の「おさかな市場」は遠方から訪れる人が多く、「沿線」と呼ぶには少し遠いけれど、春のネモフィラ、秋のコキアで知られる「国営ひたち海浜公園」もある。シーズン中に終点の阿字ヶ浦駅からシャトルバスを運行し、勝田駅から公共交通ルートを形成している。道のりとしては少し遠回りになるけれども、マイカー渋滞を避けてスムーズに行ける。帰路に那珂湊おさかな市場に立ち寄るコースも定着しつつある。

 このシャトルバスのルートを鉄道に置き換えよう、という計画が、冒頭で触れたひたちなか海浜鉄道の延伸だ。

ひたちなか海浜鉄道の位置と路線図(地理院地図を元に筆者加工)

 国営ひたち海浜公園を訪れる人が、ひたちなか海浜鉄道に乗ってくれたら、鉄道の利益になるだけではなく、ひたちなか市の交通渋滞解消にもつながるだろう。

満を持して、今まで手出ししなかった「観光列車」を開始

 ひたちなか海浜鉄道では現在、延伸に向けた活性化の取り組みが始まっている。車両はJR東海から購入した中古車を整備中で、満を持して観光列車の取り組みも始まった。

 2025年10月から12月にかけて運行した、レストラン列車「那珂湊のおさかな列車」だ。いままで、生活にも観光にも便利な列車に徹したけれど、これからは楽しい列車も走らせたい――その試金石になる列車だろう。沿線外の観光客にも積極的に乗ってもらうための、大きなチャレンジだ。