児童虐待、DV、ハラスメントなどが起こる背景には、加害者の過去の「トラウマ」が影響しているのではないか――。そう語るのはノンフィクションライターの旦木瑞穂さんだ。
2023年12月に刊行した『毒母は連鎖する~子どもを「所有物扱い」する母親たち~』(光文社新書)などで、家庭内で起こる“タブー”を調べていくと気が付いたことがあったという。親から負の影響を受けて育ち、自らも「毒親」となってしまう「トラウマの連鎖」こそが、現代を生きる人々の「生きづらさ」の大きな要因のひとつではないか。
今回は、宗教3世として生まれた家庭環境や思春期に経験した両親の離婚、弟の非行などを下地に、大学進学後に依存症になり、依存症マンガを描いたことがきっかけでマンガ家として活動し始めた三森みささん(31)に、「トラウマの連鎖」について聞いた。(全3回の1回目/続きを読む)
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人が生きるところに「トラウマ」あり。
家庭や学校、職場やサークルなど、社会で生じる「トラウマ」の多くは、連鎖していく傾向にある。
無意識に受け継いでしまった「トラウマ」こそが、現代を生きる人々の生きづらさの大きな要因のひとつではないだろうか。
そんな「トラウマ」の連鎖を防ぐ手立てを導き出したい。
暴力を振るう男性と別れたいのに別れられない
埼玉県在住の三森みささん(31)は、18歳のときに大学進学を機に実家のある大阪を離れ、沖縄に移住。奨学金を得ながら大学で染色を学び、生活費を賄うために飲食店でアルバイトを始めた。
それから約2年後、アルバイト先で知り合った男性と交際を開始する。
「人生で初めて付き合った彼は、私より10歳年上で、アルコール依存症かつ、うつ病を患っていました。彼は精神科に通い、薬で時々オーバードーズしていましたし、私に対するDVやハラスメント、性的暴行も日常的にありました」
交際を始めてから1ヶ月ほどで彼から怒鳴られたり暴力を振るわれたりするようになると、三森さんは幾度となく「別れたい」と思うようになった。しかしその度に別れられなかった。
やがて三森さんは、「別れられないなら、相手を変えてしまえばいいじゃないか」と思い立ち、彼を変えるための努力をし始める。
コミュニケーションテクニックや会話術、傾聴術、恋愛テクニックやアサーティブ・コミュニケーションなど、本を読んだりネットで調べたりして勉強し、彼と接する際に実践したが、全く通用しない。