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 そんな父親は三森さんが小学校に上がると、般若心経を教え始めた。

「私が忘れたりつかえたりするとすぐに父はブチ切れ、『何でお前はこんなこともできないんだ!』と怒鳴りました。私は怖くて泣きながら必死で覚えました。おかげで般若心経を唱えることは、私の幼い頃の特技になりました」

 小学校で友だちができたが、休みの日に遊ぶことは許されなかった。なぜなら休みの日は専ら、本殿の掃除や境内のゴミ拾い、草取りなどの奉仕活動や、他所の家々の前で般若心経を唱えて回る布教活動などを強制的にさせられたからだ。

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「『友だちと遊びに行きたい』と言っただけで父はキレて、『友だちと宗教、どっちが大切なんだ? 行くのか行かないのか? どっちにするか決めなさい!』と言って怒鳴られ、ガンガン詰められるのが私の日常でした」

三森みさ『宗教三世が信仰をやめるまで』より

 もちろん、子どもの三森さんに選択権はない。父親に逆らうことはできず、友だちより宗教を選ぶしかなかった。

 また、小学校3年生くらいの頃から、同じマンションに住む裕福な女の子から身なりをバカにするなどのいじめを受けるようになったが、そのことを父親に相談すると、

「お前が悪いんだ! お前の中に原因があるんだ! 自分の中で反省をしろ!」

 と責められ、夕食の時間などに何気なく今日学校であったことを話しても、

「お前が何もしないからクラスの雰囲気が悪くなるんだろうが! お前が何とかしろ!」

 と怒鳴られた。

「父の教えは多分、その宗教の教えを模していたんだと思うんですけれども、『自分よりも他人を大切にしなさい』『利己心を捨てなさい』と長い間教えられてきました。父は身体的な暴力こそ振るいませんでしたが、自分の機嫌次第で相手を全否定して怒鳴り散らかすのが日常茶飯事の“パワー系DVおじさん”だったんです。私は幼い頃から『泣くんじゃない!』と言われて育ち、感情を表に出すことを許されず、失敗も過ちも、打ち明ければ罵られ、謝っても罵られ、『どうすればいいの?』っていう感じでした」

 父親の説教は通常時で3時間、長いときは6時間にも及んだという。3時間の説教でもありえないが、小学校低学年の子どもに6時間というのは親として正常ではない。筆者にはこの春中学生になったばかりの娘がいるが、小中学生の朝は早い。朝8時には学校に行き、6時間授業なら帰宅は16時頃。部活があれば18時を過ぎる。夕食や入浴時間を考えると、6時間も説教していたら、睡眠時間が5~6時間になってしまう。