文春オンライン
「安全な相手では満たされず刺激を求めてしまう」トラウマを抱えた漫画家が、暴力を振るう男性と「どうしても別れられなかった」ワケ

「安全な相手では満たされず刺激を求めてしまう」トラウマを抱えた漫画家が、暴力を振るう男性と「どうしても別れられなかった」ワケ

漫画家・三森みささんインタビュー#3

2024/06/09

genre : ライフ, 社会

note

依存症患者を責めても解決しない

「病気の治療の過程で、自分の至らなさを自覚したからよくわかるのですが、私は何をどう頑張っても完璧な親・大人にはなれません。また、人格や考え方に問題はなくても、親の離婚や事故・病気などを理由にACになってしまうことはあり、その現象自体をゼロにするのは限りなく難しいと感じています。

 逆境体験によって人はトラウマを負いますが、親子関係に限らず、人間は生きてる限りどう頑張っても逆境にぶち当たってしまう。だからこそ、問題を抱えた人を支援できる社会制度を増やす。これが最善だと思っています。

 一方で、『虐待を連鎖させない』という予防の意識はすごく大事なのだけれども、『子育てに一切の失敗ができない』というのは息苦しいですし、その考えがまた何か歪な形になって誰かを苦しめてしまう。人間にできることの限界はありますから、失敗しても、きちんと回復できる社会資源やチャンスを増やすことが、健康的な対策かなと思います」

ADVERTISEMENT

 薬物依存や性依存、最近のニュースでも記憶に新しいところでギャンブル依存など、依存によって社会的制裁を受けた有名人は少なくないが、依存症患者を責めても問題の根本は解決しない。むしろ孤立を招くだけだ。依存症に限らず、自己責任を求めすぎる社会、失敗を執拗に咎める社会は、おそらく誰もが生きづらい。病気や失敗をタブー視するのではなく、科学的根拠のある情報とそれに基づく対策を公開し、教育していくことの必要性を強く感じる。

 三森さんは現在、自身の経験をマンガにして発表している。先年には、トラウマ治療のマンガを自費出版するためにクラウドファンディングを行い、7,071,020円を集め、達成(186%)した。

『生きていくのは大変だ その3 〜トラウマ治療編〜』

「私がマンガを描こうと思ったのは、『物事の入口を知るのにマンガはちょうどいい』と、自分の体験から感じていたからです。知識を獲得することは、生き延びるため、回復のために必要な力だと思います。自分に起きている現象がどういう状況なのか、知るだけでも解決の糸口が掴みやすくなります。

 ところが、トラウマ体験によって身体にまで支障が出ると、そもそも頭が回らなくなって、本を読むことができない、情報収集さえしんどいという問題がついてまわります。私自身、親が別居でもめた13歳ごろから、長い間字が読み辛くて非常に苦労しました。でもなぜかマンガだと読めたんです。私はたまたま絵が描けたので、この力を活かすことで同じように苦しんでいる仲間が少しでも楽になれば……と思いました」

「トラウマの連鎖」は止められる。止めるためには知らなければならない。筆者も微力ながら伝えていきたい。

INFORMATION

 児童虐待、DV、ハラスメント……それらの背景には「トラウマの連鎖」の影響があるのではないか。連鎖を繰り返さないためにも「トラウマ」の背景を紐解いていきたい――。

 本シリーズ「トラウマは連鎖する」では、過去に受けた被害の影響により、自身もまた周囲の人々に加害をしてしまう(してしまった)という当事者からの体験談を募集しています。

 ぜひあなたの体験をお聞かせください。ご連絡はSoudan@es.bunshun.co.jpまで。取材に応じていただける場合は、その旨もお書き添えください。ご応募、お待ちしております。

「安全な相手では満たされず刺激を求めてしまう」トラウマを抱えた漫画家が、暴力を振るう男性と「どうしても別れられなかった」ワケ

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー

関連記事