以来、金鳥は次々とナンセンスなCMを世に送り出していく。研ナオコが人形のハエや蚊に向かって「飛んでレラ」と指差し、キンチョールを吹きかけて「死んでレラ」と言ったかと思えば(1977年)、柄本明と郷ひろみが共演したCMでは、歯医者役の柄本が患者役の郷に「ハエハエカカカキンチョール」と言わせ、「よろしいんじゃないですか」とクールに告げるのがなぜかウケた(1982年)。郷出演のシリーズはその後さらにエスカレートし、横山やすしと一緒にバケツに向かって「ハエ蚊退治にキンチョール。言えっ!」と命令したり(1983年)、橋の上で誰彼かまわず「ムシムシコロコロキンチョール」と言い聞かせては顔にお札を貼りつけたり(1986年)と、ナンセンスを極める。これらはCMディレクターの川崎徹が電通関西支社と組んで企画・演出したものだ。
「亭主元気で留守がいい」
キンチョール以外にも記憶に残るCMは多い。「蚊とりマット」のCMでは1981年より当時阪神タイガースのスター選手だった掛布雅之が登場し、三枚目ぶりが笑いを誘った。1986年のCMでは、病院の待合室で金鳥マットを抱えた掛布が「これからはカのカッチ
現在40代の筆者は、ここにあげたCMのほとんどをリアルタイムで見ているが、驚いたことに大半のセリフが節回しとともに思い出せてしまう。それもそのはずで、金鳥のCMのつくり手たちは、視聴者に対し言葉を残すことに何よりも重きを置いてきたからだ。電通関西支社で金鳥のCMを担当し、多くの傑作を残したプランナーの堀井博次は、《そりゃ言葉は残るように意識してやってるとこありますよ。「亭主元気で留守がいい」でも、ほんまに覚えてほしいのは「タンスにゴン」なんやけど、それとは別に共感性のある言葉を一発入れておくと、それと一緒に「タンスにゴン」も覚えてもらえる》と述べている(※1)。
「つまらん! おまえの話はつまらん!」
その点は、金鳥の側もよくわかっていた。4代目社長の上山英介はあるとき、社員から「ウチも、もっと商品の機能とか優位性を言ったらどうですか」と進言されると、「そんなもんはライバルメーカーに任せといて、ウチはその時間、商品名をひたすら言い続けたらええんや」と返したという(※1)。