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 以来、金鳥は次々とナンセンスなCMを世に送り出していく。研ナオコが人形のハエや蚊に向かって「飛んでレラ」と指差し、キンチョールを吹きかけて「死んでレラ」と言ったかと思えば(1977年)、柄本明と郷ひろみが共演したCMでは、歯医者役の柄本が患者役の郷に「ハエハエカカカキンチョール」と言わせ、「よろしいんじゃないですか」とクールに告げるのがなぜかウケた(1982年)。郷出演のシリーズはその後さらにエスカレートし、横山やすしと一緒にバケツに向かって「ハエ蚊退治にキンチョール。言えっ!」と命令したり(1983年)、橋の上で誰彼かまわず「ムシムシコロコロキンチョール」と言い聞かせては顔にお札を貼りつけたり(1986年)と、ナンセンスを極める。これらはCMディレクターの川崎徹が電通関西支社と組んで企画・演出したものだ。

1986年3月、二谷友里恵と婚約会見した郷ひろみ

「亭主元気で留守がいい」

 キンチョール以外にも記憶に残るCMは多い。「蚊とりマット」のCMでは1981年より当時阪神タイガースのスター選手だった掛布雅之が登場し、三枚目ぶりが笑いを誘った。1986年のCMでは、病院の待合室で金鳥マットを抱えた掛布が「これからはカのカッチャンと呼んでください」とアピールするのだが、テレビを見ていた老人たち(じつは加藤嘉や曾我廼家五郎八ら名優が演じている)はやる気なさげに「頑張りや~カのカッチャン」と応えるだけで、まともに相手をしてくれない。使い捨てカイロ「どんと」のCMでは、桂文珍や西川のりお扮する古墳時代の人間に、古代の日本語で「ちゃっぷいちゃっぷい、どんとぽっちぃ」と言わせてみせた(1984年)。さらに防虫剤「タンスにゴン」のCMでは町内会にて、木野花の「タンスにゴン、タンスにゴン」の掛け声に続き、もたいまさこが「亭主元気で……」と促すと、主婦たちが「留守がいい」と声をそろえた(1986年)。

阪神タイガースのスター選手だった掛布雅之も「蚊とりマット」のCMに出演 ©文藝春秋

 現在40代の筆者は、ここにあげたCMのほとんどをリアルタイムで見ているが、驚いたことに大半のセリフが節回しとともに思い出せてしまう。それもそのはずで、金鳥のCMのつくり手たちは、視聴者に対し言葉を残すことに何よりも重きを置いてきたからだ。電通関西支社で金鳥のCMを担当し、多くの傑作を残したプランナーの堀井博次は、《そりゃ言葉は残るように意識してやってるとこありますよ。「亭主元気で留守がいい」でも、ほんまに覚えてほしいのは「タンスにゴン」なんやけど、それとは別に共感性のある言葉を一発入れておくと、それと一緒に「タンスにゴン」も覚えてもらえる》と述べている(※1)。

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「つまらん! おまえの話はつまらん!」

 その点は、金鳥の側もよくわかっていた。4代目社長の上山英介はあるとき、社員から「ウチも、もっと商品の機能とか優位性を言ったらどうですか」と進言されると、「そんなもんはライバルメーカーに任せといて、ウチはその時間、商品名をひたすら言い続けたらええんや」と返したという(※1)。