こうした金鳥のCMにおける基本姿勢は、水性キンチョールのCM(2003年)にまさに表れていた。このとき、父親役の大滝秀治の「キンチョールはどうして水性にしたんだ?」との問いに、並んで腰かけていた息子役の岸部一徳が「それは地球のことを考えて、空気を汚さないように……」と得意げに説明を始めるや、大滝が大声で「つまらん! おまえの話はつまらん!」とさえぎるのが話題を呼んだ。
もっとも、「おまえの話はつまらん!」というセリフは、初めから脚本にあったのではなかった。金鳥のCMでは、セリフがハマっていないと判断されたら、撮影現場でどんどん変えていくのが常らしい。1990年の「タンスにゴン」のCMでも、商店街を歩くちあきなおみに、自転車で通りかかった美川憲一が口にする「もっとはじっこ歩きなさいよ」という名ゼリフが出るまで、いったん撮影を止めてスタッフが喫茶店に入って考え込んだという(※1)。水性キンチョールのときは、父子が亡くなった母の墓参りに行くという最初に決めたシチュエーションも変更して、ハマる言葉が出るまで大滝に、スタッフがその場で考えたセリフを次から次へ言ってもらった。こうして最後に落ち着いたのが、あのセリフだったというわけだ(※2)。
長澤まさみが関西弁をしゃべった!
この水性キンチョールや、「亭主元気で留守がいい」「もっとはじっこ歩きなさいよ」など「タンスにゴン」の一連のCMを演出したのは、映画監督としても活躍した市川準である。金鳥のCMを映画監督が手がけたケースとしては、最近でも2016年に長澤まさみと高畑淳子の出演した「虫コナーズ」のCMに是枝裕和が起用されている。是枝はこのとき、前年に公開された『海街diary』に出演した長澤のほか、撮影の瀧本幹也、照明の藤井稔恭ら映画のスタッフを再結集して撮影にのぞんだ。
「虫コナーズ」のCMでは、静岡出身の長澤まさみが関西弁のセリフを口にするのが意外性を持って受け止められた。このように金鳥のCMでは、ときに出演するタレントの従来のイメージを崩すようなものも少なくない。