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2020/06/18

《電話までしてくる方は、何かしら金鳥のCMをご覧になって不愉快な思いをされています。それは申しわけないことかもしれませんが、別に私たちは悪いことをしているわけではありません。ただご意見としてお聞きしますというスタンスです。不愉快になる、ならない。面白い、面白くないというのは個人の感情です。私たちは考査もしっかり受けて、法的に何も問題がないということでオンエアしていますから、CM自体が悪くて謝るということはないんです》(※2)

 それはクリエイターに対する信頼の表れともいえよう。事実、前出の川崎徹は、金鳥での仕事を振り返って、《キンチョウといういいお皿の上で、みんなが安心して自由に発想を伸ばせた、それに尽きるんじゃないかなあ。信じられないくらい懐が深いんですよ。想定しないものが仕上がったほうが喜ぶんだから。「こんなんなっちゃったのか。でもいいじゃないか」って。僕らのほうが大丈夫かなって心配するくらい》と述べている(※1)。

©getty

どんな案でも「提案」まではさせてもらえる

 一方では、金鳥はクリエイターに対してわりとシビアだという声もある。「虫コナーズ」のCMに是枝監督を起用した電通関西支局の古川雅之は、《このCMで効果あるかどうか。話題になりそうかどうか、結構きびしく判断されるように思います》と語る(※2)。それでも、懐の深さを実感しているのは川崎と同じだ。

《ただ提案に関しては非常に寛容です。どんな案でも「提案」まではさせてもらえる、という感覚があります。ふつうの企業ならもっていけなそうな案も、思い切って提案すれば、話は聞いてくれます。/その上で「ひどいなーこれはないわ!(笑)」と、冷静に判断されますが(笑)。プレゼンできない、プレゼンして怒られるかもしれない、ということがないことで、僕たちも、まずは既成概念をとっぱらって、自由に広げて考えることができるんです》(※2)

 古川は2011年にコバエ捕獲器「コバエがポットン」のCMで、クレーム電話をモチーフにしたCMまで企画している。そこでは、主婦がバナナを買った店に電話をかけ、「食べたバナナの皮にですね、コバエがたかってるんです。どういうことですか? 大問題ですよね」と無理やりなクレームをつける様子に、「ありがたいご意見の途中ですが、『コバエがポットン』はいかがでしょうか」というナレーションがかぶせられた。これを採用してしまうのが、いかにも金鳥らしい。

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なぜ金鳥のCMは炎上しないのか

 思えば、金鳥はこれだけ先鋭的な広告をずっと送り続けながら、炎上したケースは意外にもほとんどないのではないか。もちろん過去にウケたCMでも、いま見ると「これはどうなのか……」と思うものはある(たとえば沢口靖子の「私もう今年で26やで」もいまなら、女性を年齢で線引きするのかといった批判も出そうだ)。それでも、金鳥は世の価値観の変化に柔軟に対処し、そのときどきで、ここまでなら大丈夫だというスレスレの表現を追求しているように見受けられる。自社商品に対しても、けっして美辞麗句で飾り立てず、ときにはけなすことも辞さない。逆にいえば、広告で炎上が起こるのは、たまに思いついたように過激な表現に手を出してみたり、きれいごとを言ってみたりするからではないだろうか。金鳥に関しては、少なくともその点は心配なさそうである。

 金鳥の広告で特筆すべき点としてはもうひとつ、いまなお影響力の大きいテレビCMだけでなく、新聞やラジオでもそれぞれオリジナルの企画を展開していることがあげられる。ラジオでは、2016年と2017年の夏に放送されたラジオドラマ仕立ての「金鳥少年」シリーズが印象深い。これは、男子中学生の“大沢君”が、同級生の“高山さん”から金鳥の各種製品をダシに思わせぶりな態度をとられて戸惑うさまを描いたもの。その甘酸っぱい雰囲気がリスナーの心をつかみ、ウェブ上ではドラマをコミック化するファンも現れたほどだった。昨夏には、「G作家の小部屋」と題して、“ゴキブリでありながら日本を代表する作家”がインタビューに応えるというシュールなシリーズが登場、もっともらしく御説を垂れる作家に対し、最後は「ごちゃごちゃうるさいゴキブリに一撃」などといったフレーズとともに各種殺虫剤がアピールされた。このとき“G作家”を演じたのが、本物の作家でパンクロッカーの町田康だったことに、また意表を突かれた。

※1 『広告批評』2005年10月号「特集 KINCHO120年」
※2 金鳥宣伝部編『金鳥の夏はいかにして日本の夏になったのか? カッパと金の鶏の不思議な関係』(ダイヤモンド社、2016年)

 このほか、宣伝会議・教育本部編『右脳思考の左巻き宣伝部』(宣伝会議、1985年)なども参照しました。

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