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ルーキー(新入生)をどう生かすか いまベンチ(教員)の能力が問われている

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/06/28
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選手達以上に問われる「ベンチ」の能力

 そしてそれは、プロ野球においても同じ事だ。高校や大学、更には社会人と比べて、遥かに多くの試合数を熟すプロ野球においては、毎年、多くのルーキー達がシーズンの進むに連れ疲労を蓄積させ、一人また一人と脱落する事となっていく。況や今年のシーズンは3か月遅れでの開始にも拘わらず120試合を消化する超過密日程。しかもその大半は7月から9月初めの猛暑の時期に集中することになっている。疲労からの回復すら困難な中、酷使された選手の中には、故障する者も当然多くなる。

 とりわけこの問題は、オリックスの様に―残念ながら―中継ぎやリリーフに弱点を抱えるチームにとって深刻だ。事実、この球団では2017年の黒木、2018年の田嶋の様に、シーズン序盤で目覚ましい活躍を見せた新人投手が、シーズン途中から疲労により調子を落としたり、故障したりする例が繰り返されている。経験の乏しい、調整方法にも不慣れなルーキーをがむしゃらに走らせれば、彼等が無理をして潰れるのは当たり前だ。

25日のロッテ戦に先発したルーキーの村西良太 ©時事通信社

 況してや今年は、ベテラン選手にとってすらはじめての「新たな状況」であり、ルーキー達の試練は更に大きくなる。無観客試合が続く中、観客からの声援による後押しを得られない彼らは、容易にマウンドやバッターボックスで孤立することになるからだ。そうして失点を積み重ね、或いは凡退を続ければ、どんなに強い精神力を持つ人でも、やがては心が折れる事になる。

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 だとすれば、彼ら「ルーキー」を支えるのは、大学においては教員、そしてグラウンドにおいてはベンチにいる人間の仕事である。そしてその事は言い換えるなら、困難な状況に置かれているからこそ、「ルーキー」を如何にして「ベンチ」から送り出し、孤立しない様に励まし、精神的にも肉体的にも、無理をしない様に導くか、が我々の腕の見せ所だ、という事を意味している。困難な状況の中、折れそうな不安の中にいる彼らを、信頼できる「ベテラン」と共に如何にして立ち直らせ奮い立たせ、経験と自信を積ませる事が出来るのか。戦力の少ないチームになればなるほど、「ルーキー」の存在は貴重になり、それをどう生かし育てるかこそが「ベンチ」の仕事になる。

 だからこそ「ルーキーだから仕方がない」という声は聴きたくない。何故なら「ルーキーだからこそ」、彼らの失敗も、またその失敗をどうカバーするかも、全て「ベンチ」の仕事だからである。

 そうしてみると、新型コロナウイルスの蔓延は、選手達以上に「ベンチ」の能力を問うている事がわかる。秋が深まりシーズンが終わりを迎える頃、成長した「ルーキー」達の姿を観客席で拍手をもって迎えたい。そんなハッピーエンドで終えられるシーズンを、今年こそは期待したいものである。

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