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「あなたの業(わざ)は何ですか?」

 事業という言葉の語源は『易経』らしいが、言葉を分解すると、業(わざ)によって事(こと)をなす、ということになる。『易経』の原義には状況の変化に適宜対応して物事を進めるという意味があるようだが、まさにその通りで、その業(わざ)はある程度の状況変化にも対応できるローバスト(確固)なものでなくてはならない。というわけで「あなたの業(わざ)は何ですか?」という話に戻ってくる。会社という帰属単位が不安定化、流動化していく中で、ある会社の業(わざ)≒個人の業(わざ)という擬制が当然には成り立たなくなっていく。会社が変わっても、場合によってはフリーターや個人事業主になっても、それなりの対価を払ってもらえる程度の人の役に立てる業 (わざ)を持つことが必須になってくるのだ。

 そこですぐに資格だMBAだとなるが、それは業(わざ)を持っている蓋然性のシグナルに過ぎない。結局、業(わざ)の習得も、業(わざ)の評判も、学習と仕事の積み重ねでしか実現できない。プロフェッショナリティというものはそんなものである。自分がここでなしうることは何か、それに対して誰か相応の対価を払ってくれる人はいるのか、いないとしたら自分には何が足りないのか。日本的カイシャ、特に大組織に帰属して仕事をしていると、この自問自答をしなくなる。自分の上司や社内の空気が顧客になってしまい、自分のこの1時間に、自分のこの資料に、アカの他人の誰かが対価を払ってくれるか否かを考えなくなる。しかし、それを考えながら過ごした10年間と、考えない10年間では、埋めがたい差がつく。

 

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 経営職、中間管理職、財務、会計、法務、営業、マーケティング、生産技術、生産管理、プログラマー、運転士、オペレーター……業(わざ)、すなわちプロフェッショナルでない仕事は本来存在しないし、今は存在してもCX(コーポレート・トランスフォーメーション/会社のありようが根こそぎ変わること)が進むと確実に会社の中から消えていく。中間管理職の基本業(わざ)である社内調整力だってそれが他社に行っても通用するほどのものならその人物は立派なプロフェッショナルデある。ただし、こういう漫然とした感じの業(わざ)でどこででも役に立とうとしたら、それこそスーパー名人級でないと難しいとは思うが……。