「大企業のなかで、経営者を目指す理由はあるのでしょうか?」――ベストセラー『天才を殺す凡人』著者の北野唯我氏からの疑問に対して、『社長の条件』(経団連・中西宏明会長との共著)で社長2.0像を提示した冨山和彦氏の答えとは。

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ジャパン・アズ・ナンバーワンの時代、天才タイプは求められなかった

冨山 『社長の条件』でも強調していることですが、今はっきりしているのは、従来の延長線上で行なっている事業を守ったり、延長させたり、というのは社長本来の使命ではない、ということです。

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 これからは、どんな事業をやっていてもほぼ例外なく、不連続で異質な競合企業が現れます。GAFAなどがまさにそうですね。この不連続で異質なるものに、どう対峙し競争していくか。それが今後の社長の仕事になりますから、そういう能力がないのであれば、社長をやるのは厳しいですね。

 

北野 冨山さんから見て、いつくらいから状況が変わっていった印象ですか。

冨山 30年くらい前でしょうね。ちょうど僕がスタンフォード大留学から帰ってきた頃。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代で、日米貿易摩擦が激化していた。

 ただし、日本が勝ってきたモデルというのは、基本的にオペレーショナル・エクセレンスの領域なんです。自動車にしても、ヘンリー・フォードが作って、GMが洗練させたモデルを、日本の自動車会社がさらに改善・改良した。

 しかも当時は賃金が安かったので、「安かろう、良かろう」ができた。安くていいものを大量に輸出するモデルでもって、アメリカの既存産業を置き換えていったわけです。

 結局は、改良型イノベーションなんですよ。それで世界一になり、時価総額で世界10位のうち、7社が日本の会社、なんてことになったんです。というのも、同質的で連続的な組織集団が連続で改善・改良するというのが、有効な時代だったからです。

北野 僕は『天才を殺す凡人』のなかで、組織が必要とする能力を大きく3つに分けて定義しましたが(天才=創造性、秀才=再現性、凡人=共感性)、そのなかの再現性にあたりますね。