ブックスマート(学校秀才)か、ストリートスマート(叩き上げの達人)か
冨山 ちゃんといいパスを描ければ、40代までには、大抵の会社の社長はできるはず。
北野 大企業でも、経営人材を育てる、ということをよく言っていますよね。ただ、ビジネスモデル上、経営人材が育ちにくい事業もありますよね。たとえば、広告代理店はPL型のビジネスです。売上と売上総利益ぐらいしか見る必要がない。だけど、経営は、BSやキャシュフローも見る必要がある。だから、会社で出世しても、本当に経営者になれたのかというと、きっとなれないという感覚がものすごくありました。
28歳くらいからスタートアップに来て役員をやっていますけど、今の方が何十倍も学びが多いと感じています。
冨山 日本の会社では、オペレーショナル・エクセレンスを実現できることが出世の条件だったから、みなそれに適応してきました。いわばサッカーの監督が必要なのに、野球で結果を出せ、みたいなことをやっているわけ。その意味で、今、会社で出世している人が果たしてどんな人なのか、シビアに見極めたほうがいいでしょうね。
北野 ビジネスの世界においては、ブックスマート(学校秀才)がよいのか、それともストリートスマート(叩き上げの達人)がよいのか、という議論があります。いまのお話の流れからすると、ストリートスマートならではの、生きていくための力みたいな経験が、大事なのでしょうか。カネボウ、ダイエー、JALなど多くの再生案件を手がけられてきた冨山さんも、相当な修羅場を経験なさってきたかと思うのですが。
冨山 ブックスマートは、ストリートスマートの戦いを避けるんです。でも、厳しい経験は若い頃にやっておいたほうがいい。それなりの地位を得ると、失うものが出てきてしまいますから。辛酸にも耐えられなくなる。中年になってからでは遅い。
結局、両方大事なんです。どっちが欠けても難しい。だから、若いうちにストリートスマートな経験をしておくことは、とても大事だと思いますよ。
構成=上阪徹/写真=平松市聖