炎上したNHK動画の問題点
——貴堂先生は、NHKの番組「これでわかった!世界のいま」(6月7日放送分「拡大する抗議デモ アメリカでいま何が」)と公式ツイッターに投稿された動画について、他のアメリカ研究者の方々と共にNHKに要望書を提出していますね。
貴堂 はい、この番組には国内外から多くの批判が寄せられ、放送2日後には「お詫び」を発表して、見逃し配信を停止し動画を削除しました。翌週の14日の放送冒頭では約4分間にわたって謝罪の言葉がありました。この一連の騒動において、12日に私たちが提出した要望書とその後の署名集めは、NHK側の動きに影響を与えたものと思っています。
私たちが問題視したのは、黒人を「怖い存在」「脅威」「過度なセクシュアリティを体現する」男性という典型的なステレオタイプで描き、番組が警察暴力を容認しているかのような印象を与えていたところです。むしろ、今回お話ししてきたように、事件の背景にあるのは社会の仕組みとしての人種主義、制度的人種差別です。
今回のデモ参加者は黒人だけではなく、白人やアジア系やヒスパニックなどその他のマイノリティが多い人種横断性を特長とし、10代や20代の若者が中心になってSNSなどを使って集会を開いています。こうした人種や年齢、地域を越えた幅広い運動として展開し、日本を含む世界中にこの運動が広がったのは、こうした人種主義の構造を問題にしたからです。
「自分は人種差別主義者じゃないし」と思考停止する危険性
——最後に、読者に伝えたいことを教えてください。
貴堂 私はこの20年あまり移民排斥やレイシズム、ヘイトクライムなどの問題に関心を寄せて研究をしてきました。しかし、高校の世界史教科書で、時代錯誤的な「人種」の生物学的な定義を書き直すなどの小さな貢献はしてきましたが、いまだレイシズムに関する理解は日本ではあまり進んでいないのが現状です。
大学で教えていても、「でも、自分は人種差別主義者じゃないし」といった個のレベルで思考停止してしまう学生が多い。しかし、今回のアメリカで起きていることは決して対岸の火事ではありません。日本の構造的差別を考えるきっかけにしてもらえればと思います。
アメリカでは今も抗議活動が続き支援の輪が広がっています。その中で、白人の参加者が「Silence is Violence(黙っているだけでは、暴力に加担しているのと同じ、という意味)」というプラカードを持って参加しています。BLM運動を他人事とはせず自分事として考え、抗議活動に参加した人たちです。
日本社会で、どれだけ沈黙をやぶる人たちが出てくるか。それが日本人一人一人に、BLM運動が投げかけている問いかけのように思います。