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 異人種間結婚禁止の怖さは、誰と恋愛・結婚するのか、誰と恋愛・結婚してはいけないのかという、非常にパーソナルなところで刷り込みが行われることだと思います。「絶対白人を好きになっちゃいけない」「黒人を好きになっちゃいけない」というふうに縛ることで、「異人種間の違いは絶対的なものだ」と刷り込んでいく。

 こうした刷り込みが米国のいわゆる「人種隔離社会」を形作ってきた側面もあります。暴力によって人種差別は起きるけれども、暴力じゃなくても人種差別は起きるということの典型例だと思います。 

「アジア系は成功しているのに、黒人はなぜ」が見落としていること

——BLM運動に対する日本での反応で気になったものに「アジア人はマイノリティだけれども成功している。黒人は怠けているのではないか」というものもありました。 

貴堂 そもそも、「アジア系の成功」がみなさんが考えているほど実体のあるものではない、ということを指摘したいです。 

 確かにアジア系の平均年収は高いのですが、それは日系人やIT関連就業者の多いインド系など、一部の高所得者が平均値を引き上げている面があります。特に1965年の移民法改正以降、アジア系移民は急増し、多様化していったのでひとまとめにはしづらい。インドシナ難民など、平均年収が黒人よりも低いグループもありました。 

ロサンゼルスのリトル・トーキョー ©iStock.com

「アジア人はマイノリティだけれども成功している」と言う人は米国でもたくさんいますが、これは純粋にアジア系を評価しているわけではないと思います。アジア系をモデル・マイノリティ(模範的なマイノリティ)として持ち上げる言説は、「福祉に依存している」と言われる黒人やヒスパニックを非難するために利用される言説なんです。 

 日本では「アジア系は黙って働いて、社会的地位を得たんだ」というようなことを言う人もいますが、米国には日系人をはじめとするアジア系による反差別運動の長い歴史があることを、忘れてはいけないと思います。 

白人警官の暴行に立ち会っていたアジア系警官の存在

——ジョージ・フロイドさんの事件では、白人警官の暴行にトゥー・タオというアジア系の警官が立ち会っていたことも指摘されています。   

貴堂 タオはラオスのモン族がルーツと報じられています。モン族はベトナム戦争後、難民として米国に移住してきた少数民族です。ミネソタ州は難民を多く受け入れており、モン族の人たちのコミュニティもあります。 

 先ほどの話でいうと、モン族は、アジア系の中でも平均年収が最底辺のグループ。つまり、今回の事件には、米国社会の最底辺にあり差別される側であったはずのマイノリティが、人種差別的な白人警官の人種差別に加担してしまったアイロニーがあります。差別された経験のある人が、差別をする側に回るという構造も見えてくるんです。 

 今回の事件には、ミネアポリスという多文化都市ならではの、白と黒の二分法的な世界だけでは理解できない、重層的な差別構造があらわれていると思います。