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「嫉妬」という厄介な感情の正体――人は“自分と似ているライバル”を攻撃する

2020/06/29
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嫉妬の感情をつくり出す実験をしてみると……

 アメリカの社会心理学者デイヴィッド・デステノは、ここからさらに一歩進んで、実験室のなかで嫉妬の感情をつくり出す独創的な方法を考案した(3)。この実験の被験者になると、あなたは次のような体験をすることになる。

 コンピュータでかんたんな作業をするために研究室に呼ばれると、同じ年ごろの異性の参加者(パートナー)が先に来ている。パートナーは気さくに話しかけてきて、スタッフが現われるまであなたは楽しい会話をする。

 次にスタッフから、「この作業は1人でやっても、ペアでやってもかまいません」と説明される。パートナーは「せっかくだからいっしょにやろうよ」と誘い、あなたは同意する(実験に参加した大学生のうち、この提案を断ったのは1人だけだった)。

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 パートナーと2人で協力しながら作業を始め、いい雰囲気になってきたところに、遅れてきたあなたと同性の参加者(ライバル)が現われる。ライバルは席につくと、パートナーに話しかけて作業のやり方を教えてもらう。

©iStock.com

 ここからシナリオは2つに分かれる。本実験では、パートナーは「困ったなあ、3人だとペアがつくれないね」といい、どうすればいいかスタッフに聞きにいく。スタッフは最初と同じように、「1人でやるか、ペアでやるかは自由に決めてください」と答える。そこでパートナーは、あなたではなくライバルに「いっしょにやろうよ」と声をかける。

 一方、対照実験では、パートナーは「しまった、大事な用事があったのを忘れていた」といって中座し、ライバルは自分のペースでやることを選ぶ。

 どちらのシナリオでも、最終的には1人で作業することになるのだが、当然のことながら、被験者が示した反応にはものすごく大きなちがいがあった。パートナーからすげなくされた被験者は、信じられないといった表情を見せただけでなく、相手に聞こえないように侮蔑的な言葉を吐き、実験後のアンケートでは強い嫉妬を感じたとこたえた。

 それだけでなく、本実験の(嫉妬した)被験者は、対照実験の被験者と比べて自己肯定感が大きく下がっていた。IAT(潜在連合テスト)という手法を使って潜在意識を調べると、ネガティブな言葉を自分自身と結びつける割合が明らかに高くなったのだ(自己肯定感が高いとポジティブな言葉を自分自身に結びつけ、自己肯定感が低いと逆になる)。