人はなぜ「嫉妬」してしまうのか。どんな相手に嫉妬を覚えるのか――。『女と男 なぜわかりあえないのか』(文春新書)を上梓した作家の橘玲氏が、「嫉妬」という厄介な感情の正体を解き明かす。

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 すべてのひとが経験しているだろうが、恋愛のよろこびはつねに嫉妬の苦しみとともにある。異性が気になりはじめたとき、話もしないうちからライバルに対する嫉妬が芽生える。恋愛関係になれば、愛情が熱烈なほど嫉妬の感情も大きくなる。愛するひとに裏切られたとわかると、嫉妬とともに怒りや悲しみ、絶望の感情が押し寄せてくる。

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 パートナーへの嫉妬が、たいせつなものを失うことへの不安であり、警告であることはすぐにわかる。性愛はきわめて稀少なので、いちど手に入れたら、ぜったいに手放さないようわたしたちは進化してきたのだ。

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「嫉妬はどのような感情なのか」

 失恋した直後の大学生を集め、fMRI(磁気共鳴機能画像法)を使って脳の活動を調べた研究者がいる(1)。それによると、嘆き悲しむひとの脳では痛みを感じる部位が活性化していた。「こころが血を流している」はたんなる比喩ではなく、全身が傷つき、のたうちまわるような痛みを脳は現実に感じているのだ。

 パートナーが自分から離れていくと気づくと、皮肉なことに、脳内では神経伝達物質のドーパミンとノルエピネフリンの分泌が増え、どんなことをしてでも愛されたい(セックスしたい)という欲望を掻き立て、深く愛し合っていたときと同じ状態になる。血だらけになりながらも愛情を追い求め、拒絶されることで不安や絶望に打ちのめされ、怒りと憎悪に圧倒されるのが恋の終わりなのだ。

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 研究者は、このときの脳の状態は覚せい剤などの薬物中毒の離脱症状と同じで、あきらめようと思えば思うほど相手に依存していくという。だがこれは、進化の順番を考えれば当たり前でもある。恋愛そのものが「中毒」で、ドラッグやギャンブルなどは、脳の「恋愛中枢」を乗っ取って金儲けに利用しているのだ。

「嫉妬はどのような感情なのか」は心理学者の関心を集めてきたが、これまでうまく研究することができなかった。失恋の心理を調べても、そこには社会的・経済的損失への恐れや不安が含まれ、感情の嵐が大きすぎて嫉妬だけを取り出すことができないのだ。

 そこで研究者は、若い男女を集め、質問形式でどんなときに嫉妬が起きるかを調べてみた。次のような場面を想像してほしい。