石川昂弥が対戦して舌を巻いたもう1人の投手
森田氏はプロで活躍する選手の共通点を指摘する。
「求める力、気付く力、覚える力の3つです。まず、常にレベルアップを求めること。すると、練習中に色々と試して、内角のさばき方とか変化球の対応とか『あ、これだ!』と気付ける。気付いたら、それを忘れないように反復練習する。昂弥は全てを持っていました」
加えて森田氏は勝負をする上での心構えを説いた。
「見下ろすこと。もちろん、相手への敬意は絶対です。しかし、いざ勝負の時はいかに相手を見下ろせるか。相手の力が10で自分が6でも、見下ろすことで相手の力を5にしてしまう。戦う前から気後れしていては必ず負けます」
選抜決勝の前夜、宿舎でミーティングが行われた。
「あの時、習志野のセカンドランナーがバッターに球種を伝達している疑惑があったんです。でも、うちはバッテリー間のサインをイニングやアウトカウントで変えていたので、問題ないと思っていました。キャッチャーに聞いても『大丈夫です』と。念のため、先発する昂弥にも確認したんです」
すると、次の瞬間、部屋は静まり返った。
「セカンドにランナーを出さなきゃ、いいですよね」
才能あふれる野球少年は名門で心技体を鍛え、勝負師になっていた。入団会見で臆することなく「新人王を狙う」と発言し、「将来は三冠王を目指す」と胸を張った石川昂弥。間違いなく、高校3年間の着実な進化と築き上げた自信が礎となっている。
ところで、舌を巻いたもう1人の投手は誰なのか。
「昂弥が2年の夏に練習試合をしたんですが、とらえた当たりはほとんどなく、0対0でした。『低めの伸びが凄い。変化球は消えます』と言っていました。私も30年以上高校野球を見てきましたが、球威、コントロール、完成度はナンバーワンです」
彼の名は奥川恭伸(ヤクルト)というらしい。2人はいつどこで対決するのか。その日、きっと背番号2はマウンドの右腕を見下ろしているだろう。
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