徹底されていた感染対策。傘とタオルの応援は!?
翌11日、大雨洪水警報が発令されるほどの大雨は午前中で上がり、ついに「有観客試合生観戦」は叶った。
この日はレフト側の外野指定席での観戦を選んだ。充分に間隔を取って座る観客。オレンジ色9に対して1に満たないほどのスワローズファン。そのなかには神宮球場でお見かけしたことのある面々も。対するオレンジ側は、聞く限り「関西弁」がほとんど。そんな人々にとって「東京から来た、スワローズファン」はどう映っているのだろう。
アルコールの販売、持ち込みの禁止。外野でも起立しての応援の禁止。メガホン、タオルを振っての応援の禁止。完全禁煙。観客席を頻繁に往来する警備員からは「大きな声を出している人や、席間を移動する人がいればお知らせください」と再三注意喚起が行われる、厳戒ムードだった。
美しい芝、カクテル光線、“開幕”を祝して乾杯したい。「ノンアルコールビール」を求め売店に並ぶ。売り子は稼働しておらず、観客は自ら買いに行く。売店の人が注いでくれたノンアルコールビールは蓋が被された状態で、慎重に手渡された。
試合開始は降雨のため30分遅延となったが、選手が守備位置に散ると大きな拍手が湧き上がる。ボールがミットを叩く音、選手の掛け声も聞こえてくる。無観客試合で画面越しに聞いていたあの音が、ダイレクトに耳に飛び込んでくる。
プレイボールがかかると、投球間はまったくの静寂に包まれた。この日のジャイアンツの先発・サンチェスの投球時の「ウッ!」という声が外野バックスクリーン横の自席まで聞こえてくる。静寂、拍手、静寂、バットにボールが当たる乾いた音。
観客は微動だにせず、固唾をのんで選手の一挙手一投足に集中する。内野席で幼児が泣き出した声が球場中にこだまし、慌てた母親が「シーッ!」と口を塞ぐ声まで耳に入るほど。
緊張と弛緩。そんな静寂を破ったのはキャップ・青木宣親だった。1回表にスワローズファンに届けとばかりに、レフトスタンドへの先制ソロホームラン。(どうする?)と一瞬考えたような間があったあと、同士たちはおずおずと立ち上がり、傘を手に、東京音頭を小声で唸るように歌った。
その裏のジャイアンツ、一死2、3塁のチャンスで「録音チャンテ」が流れ、巨人ファンも小声で口ずさむ。4番・岡本和真のタイムリーで2点が入ったのだが、オレンジタオルを振れない大多数のファンは掲げるだけ。その後の試合展開もあり、ちょっと気の毒であったが。
午後10時10分に試合は終了。9対4でスワローズの快勝。「今季初生観戦」を勝利で飾ったことよりも、「ニュースタイル」での観戦は新鮮でもあった。とにかく試合に集中できる、ベンチや選手から聞こえる声も相まって、試合に没入していく感覚は格別だった。
球場を出ると、多くのスタッフが花道を作るように並び観客に「ありがとうございました」と言いながら深々と頭を下げている。感染対策、天候不良、開催に漕ぎつけるまできっと我々の想像以上の苦労があっただろう。「野球をありがとうございました」。黙礼をして軽やかに帰途についた。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム ペナントレース2020」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/38714 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。