1932年にヴィクター・ハルペリンが監督した『ホワイト・ゾンビ』以降、時代の流れと共に数多くのゾンビ映画が製作されてきた。そんな数多くのゾンビ映画を、学問として読み解く「ゾンビ学」を実践するのが近畿大学で准教授を務める岡本健氏だ。ここでは、近年爆発的なヒット作となっている『鬼滅の刃』をゾンビという切り口から考察する。『鬼滅の刃』に含まれるゾンビ性とはいったいどんなものだろうか。『大学で学ぶゾンビ学~人はなぜゾンビに惹かれるのか~』(扶桑社)より一部を抜粋して紹介する。
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人間 vs 異人間
現代日本では、「ゾンビ的な存在」が現れ、人間と対峙するコンテンツ作品が人気を博している。たとえばマンガの、『進撃の巨人』『東京喰種 トーキョーグール』『亜人』などがそうだ。これらの作品で描かれるのは、次のような「人間と似た部分はあるが異質な存在」と人間が対峙する世界である。
『進撃の巨人』では、人に襲い掛かって食らう巨人が存在し、それらから身を守って暮らす人類が描かれた。巨人は明確な意識がない様子で、生きている人間を見つけると襲い掛かって捕まえ、食ってしまう。(*1)
*1 物語が進むにつれて、意識を持った巨人が登場するなど、巨人も一様ではない。
『東京喰種 トーキョーグール』には、人を食わなければ生きていけない「喰種(グール)」という存在が現れる。見た目は人間と変わらず、会話もでき、人間社会に紛れて暮らしている。ただ、人間が食べる食物は体がまったく受け付けず、人肉のみを食す存在だ。また、赫子(かぐね)と呼ばれる人間を捕食する器官を持ち、戦闘能力が高い。『亜人』では、死なない人間「亜人」が登場する。見た目は人間と変わらず、本人も一度死んで復活するまで、自分が亜人かどうかはわからない。死んだ瞬間に蘇生するため、不死身である。人を食う性質はない。特殊な力として、IBM(Invisible Black Matter)と呼ばれる「黒い幽霊」を発生させ、訓練すればこれを操作することができる。
これまでのヒット作との共通点
この三作品の主人公はいずれも二種族の「間」に立たされる。『進撃の巨人』の主人公エレン・イェーガーは人間として生活していたが、ある時、自分には巨人になる力があることがわかる。人間の中には、「巨人」の力は戦力として貴重ではあるものの、人間の中に「巨人」が潜伏していたことに危機感を覚えて主人公を排斥しようとする人が出てくる。『亜人』の永井圭(ながい けい)は、トラックに轢かれて死亡し、その場で復活したため亜人であることがわかる。亜人は不死身なので非常に強い存在ではあるが、「死亡するとすぐ復活する」という特徴から、人間に捕獲されて人体実験をされてしまう危険性がある。亜人の中には亜人同士で連帯し、人間に復讐をしようと企てる者もいる。『東京喰種』の金木研(かねき けん)は、前二者とは異なり、元々は人間だった。喰種である神代利世(かみしろ りぜ)に、まさに捕食されようかという、その時に共に事故に巻き込まれてしまう。重症を負った金木研は、神代利世の内臓を移植されて一命をとりとめる。喰種の内臓を移植されてしまったことで、金木は人間の食べ物を受け付けなくなり、半喰種となってしまう。