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ゾンビ学を通じて見た『鬼滅の刃』のヒットの理由とは

『大学で学ぶゾンビ学~人はなぜゾンビに惹かれるのか~』より #2

2020/07/07

 作品を通じてさまざまな社会風刺が行われてきた一大コンテンツである「ゾンビ」もの。その影響は多岐にわたり、「ゾンビ的」な存在が人間と対峙するコンテンツはいまや決して珍しくない。年内に最終巻の発売が予定される大人気漫画『鬼滅の刃』も、そんな作品群の一つであるといえるだろう。ここでは近畿大学で「ゾンビ学」の講義を開催する大学教員、岡本健氏の著書『大学で学ぶゾンビ学~人はなぜゾンビに惹かれるのか~』(扶桑社)より、『鬼滅の刃』の画期的な特徴に迫る。

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「引きこもり」と「決断主義」を調整する

『鬼滅の刃』は、これまでのジャンプ漫画との連続性を有するとともに、かなり特徴的な作品でもある。以下は、『ワールド・ウォーZ』の分析を行った第3章の「1-5.『引きこもり』と『決断主義』」で整理した、ジャンプ漫画の時代の変化を思い出しながら読んでいただきたい。

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 まずは、主な登場人物の特徴を整理しておこう。主人公の竈門炭次郎は強い「優しさ」を持つ。また、嗅覚が異様に鋭く、さまざまな「匂い」をかぎ分ける。この時の「匂い」は単に物理的な匂いだけではなく、相手の性格や感情を「匂い」として感じることができる。炭次郎と行動を共にする我妻善逸(あがつま ぜんいつ)は聴覚が発達しており、ほかの人には聞けない「音」を聞くことができる。炭次郎同様、この「音」も物理的な音はもちろん、感情や心理状況も含む。そして、非常に臆病でマイナス思考である。女性が大好きで、炭次郎の妹である禰豆子に惚れている。そして、炭次郎と善逸の鬼殺隊員の同期である嘴平伊之助(はしびら いのすけ)は触覚が鋭い。イノシシに育てられた野生児で、頭にはイノシシの頭巾をかぶっており、上半身は裸。好戦的な性格で、自分より強い対象に挑みかかる「猪突猛進」を信条としている。

それぞれの登場人物が生きる世界のあり方

 炭次郎、善逸、伊之助は、鋭敏な感覚がそれぞれ異なるだけでなく、自分たちを取り巻く「世界」に対する態度があまりに違っている。炭次郎は、家族を鬼に惨殺され、妹を鬼に変えられているにもかかわらず、世界に対する優しさや信頼感、前向きさを失っていない。その対象は、人間だけでなく、鬼にもおよび、自分が殺した鬼の最期を看取り、鬼の魂は浄化されて成仏し、涙を流しながら消滅していく鬼もいる。一方の善逸にとって、世界は生きづらい。初登場時からずっと「自分はどうせすぐに死ぬ」と言い続けており、鬼殺隊に入隊する前段階の訓練でも泣き言ばかり言っていたようだ。全集中の呼吸「雷の型」の使い手だが、九つある型のうち一つの型しか身に付けられなかった。とにかくマイナス思考で、任務に対して後ろ向きな、いわば「引きこもり系」である。伊之助は、幼いころに山に放置されてしまい、イノシシに育てられた。自分を取り巻く世界には自分より弱いものか強いものしかいないと考え、強いものには「猪突猛進」で立ち向かっていく。まさに弱肉強食の世界をサヴァイヴしてきたキャラクターだ。

 このように、主人公と同じく鬼殺隊に所属している同期でも、価値観がかなり異なっている。特に、善逸が世界に対して「引きこもり」的な態度で、伊之助が「サヴァイヴ感」のある世界を生き残ってきた点は興味深い。