一蓮托生ではない「鬼」の存在
さらに、こうした特徴は、同じ鬼殺隊の最強の剣士たちである「柱」を見ても同様だ。この「柱」は、一般の鬼殺隊員と比べて戦闘能力が高く、鬼の中でも強力な鬼を屠っている。常人とは異なる強さを身に付けた先輩格の登場人物たちであれば、思慮も深そうなものだが、初登場シーンでは性格が偏かたよった人物として描かれる。また、柱同士でも価値観はかなり異なり、「鬼を殺す」ことを目的にし、隊の「お館様」である産屋敷耀哉(うぶやしき かがや)を慕っているという点以外は、共通点より相違点が目立つ。会話も成立しているようで、お互い伝わっているのか怪しいことも多い。一方の鬼のほうも、まとまっているとは言い難い。そもそも、鬼はもともと人間であり、鬼舞辻無惨(きぶつじ むざん)が血を分け与えた者が鬼となる。鬼は群れないとされ、それぞれが独自に行動している。ただ、無惨が多く血を分け与えた特別に強い十二人の鬼「十二鬼月」がおり、無惨の命令に従い行動する。十二鬼月には、下弦の鬼が六人、より上位の上弦の鬼が六人いる。鬼殺隊で柱として認められるには、十二鬼月に勝つことが条件となる。
厳しい世界に持ち込まれる「優しさ」
炭次郎は、この中にあって「優しさ」というノイズを持ち込む存在だ。とはいえ、炭次郎とて、単に優しいだけではいられない。物語冒頭で、炭次郎を鬼殺隊に導く二人の登場人物のセリフを見ておこう。人間としての意識をなくして鬼となった禰豆子に襲い掛かられた炭次郎は懸命に「鬼なんかになるな」と何度も呼びかける。炭次郎を襲いながらもその声に涙を流し始める禰豆子。その時、突如切りかかってくる者が現れる。とっさに禰豆子をかばって避ける炭次郎。切りかかってきたのは、鬼殺隊の「柱」の一人である冨岡義勇(とみおか ぎゆう)だった。義勇は禰豆子を殺すと言って聞かない。炭次郎は土下座をして懇願する「やめてください……どうか妹を殺さないでください……お願いします…お願いします……」その様子を見て義勇は次の言葉を強い調子で投げかける。