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ゾンビ学を通じて見た『鬼滅の刃』のヒットの理由とは

『大学で学ぶゾンビ学~人はなぜゾンビに惹かれるのか~』より #2

2020/07/07

激しい言葉がぶつけられる

「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」「惨めったらしくうずくまるのはやめろ!!」「そんなことが通用するならお前の家族は殺されてない」「奪うか奪われるかの時に主導権を握れない弱者が」「妹を治す? 仇を見つける?」「笑止」「千万!!」「弱者には何の権利も選択肢もない」「悉く力で強者にねじ伏せられるのみ!!」「妹を治す方法は鬼なら知っているかもしれない」「だが」「鬼共がお前の意志や願いを尊重してくれると思うなよ」「当然俺もお前を尊重しない」「それが現実だ」「なぜ」「さっきお前は妹に覆い被さった」「あんなことで守ったつもりか!?」「なぜ斧を振らなかった」「なぜ俺に背中を見せた!!」「そのしくじりで妹を取られている」「お前ごと妹を串刺しにしても良かったんだぞ」

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 炭次郎と禰豆子が、引きこもっていても何も解決せず、弱い存在を誰も助けてくれない、そんな世界に投げ込まれたことが印象的に描かれている。この後、義勇の予想に反して禰豆子は、重度の飢餓状態にありながら炭次郎を食うどころか守ろうとし、義勇は二人の可能性にかける判断をする。炭次郎に、鬼殺隊の剣士を育てる役割を担っている鱗滝左近次(うろこだき さこんじ)を紹介する。

 初対面で左近次は炭次郎に尋ねる。「妹が人を喰った時お前はどうする」。すぐに答えられない炭次郎を左近次は平手打ちにして、次のように言う。「判断が遅い」「お前はとにかく判断が遅い」「今の質問に間髪入れず答えられなかったのは何故か?」「お前の覚悟が甘いからだ」「妹が人を喰った時にやることは二つ」「妹を殺しお前は腹を切って死ぬ」「鬼になった妹を連れて行くというのはそういうことだ」。

ゼロ年代的想像力の一つである「決断主義」が明確に提示される

 まさに決断主義である。義勇と左近次によって、この世界は、引きこもっていても誰も助けてくれず、とにかく自分の責任において何らかの決断を瞬時に行っていかなければ生き残っていけないサヴァイヴ感に満ちたバトルロワイヤルの世界であることが示される。映画『ワールド・ウォーZ』の世界で主人公が対峙する世界と同じだ。

 炭次郎は、この後、鬼殺隊に入隊し、前述した我妻善逸や嘴平伊之助、そして、柱の面々とともに、鬼を殺す任務を遂行していく。善逸は引きこもりの象徴であり、伊之助は弱肉強食の体現者だ。善逸はとにかくマイナス思考で口を開けば自分は死ぬと言って聞かず、守ってほしいと懇願する。伊之助は自分より強いものに挑んで打ち倒すことしか考えておらず、鬼に襲われている子どもを踏みつけにして鬼に猪突猛進していく。炭次郎はこの二者に対して、少しずれたツッコミを入れながら調整しつつ、任務を遂行していく。その過程でこの二者も変化し始め、チームプレイも見られるようになっていく。