6月16日、北朝鮮が開城にある南北共同連絡事務所を爆破した。北朝鮮は23日、南北軍事境界線近くでの軍事演習の実施などを保留したが、緊張は容易に解けそうにない。
文大統領をこきおろした金与正氏の人物像
今回、韓国を激烈な言葉で罵倒し、注目を集めたのが、金正恩朝鮮労働党委員長の実妹、金与正党第一副部長だ。脱北者を「家の中の汚物」「くず」と呼び、文在寅韓国大統領を「鉄面皮で図々しい詭弁だ」とこきおろした。金与正氏とはどういう人物なのか。なぜ、強硬派の代表格に収まっているのだろうか。
韓国統一省の「2020年版北韓主要人物情報」によれば、与正氏は1988年、金正日総書記と在日朝鮮人だった高英姫氏との間に生まれた。2014年に公式な活動を始めるまでは、金日成総合大学を卒業したという程度の情報しかない。過去、北京や瀋陽に現れた北朝鮮当局者らは、いずれも与正氏のプライバシーに踏み込むことをためらった。ロイヤルファミリーの私生活は、北朝鮮の人々にとって最大のタブーにあたる。
与正氏の人柄をちらりとうかがわせる機会になったのが、18年2月、平昌冬季五輪開会式に出席するため、初めて訪韓した時のことだった。当時、与正氏と面会した韓国政府関係者によれば、与正氏のしぐさには特徴があった。有名芸能人のように「見られている」という事実に快感を覚えるような動きだった。関係者の1人は「ソウルから平昌に移動する際や開会式の会場などで、常に他人の視線を楽しんでいた。他人が視線を向けると面はゆいような笑顔を浮かべた。状況に応じて態度も変えていた」と語る。
五輪開会式では、文在寅大統領夫妻と笑顔であいさつを交わす一方、同席したペンス米副大統領や安倍晋三首相には視線すら向けず、一切無視した。安倍首相は何とか接触しようと、開会式が始まる直前まで会場入り口に立って、与正氏を「入り待ち」したが、見事にかわされた。
「与正氏がやたら目立ちたがって困る」
北朝鮮当局者らは中国などで接触した情報関係筋に対し、「与正氏がやたら目立ちたがって困る」とこぼしている。18年6月のシンガポールでの米朝首脳会談では、与正氏が金正恩氏に共同声明にサインするペンを手渡しした。正恩氏が外国首脳との式典で花束を受け取るとそれを預かる役もこなした。最近も5月1日にあった平安南道の順川リン酸肥料工場竣工式で正恩氏にテープカット用のハサミを手渡した。
もともと、こうした場面に出くわした米国や韓国の政府関係者らは「こんな仕事、普通は課長以下の仕事だろう」と驚いていたが、北朝鮮当局者らも同じ思いを抱いていたらしい。「花束を受け取る役割の人間の身にもなってみろ」と嘆いた北朝鮮当局者もいたという。
日本政府関係者の1人も「与正氏が公開の席に出るときは、いつもひざ上のスカート姿。オーダーメイドなんだろうが、ずいぶん外見を気にする人なんだなという印象だ」と語る。
「目立ちたがり屋」とも言える与正氏の行動にはそれなりの理由がある。