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香港、コロナで剥き出しになった「中国の本性」 日本人はこの傍若無人な大国とどう向き合うべきか

アフター・コロナの中国論 #2

2020/07/04
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 フィリピンのケースだけでなく、今年4月にはベトナム漁船が中国海警局の巡視船に体当たりされて沈められ、6月には同じくベトナム漁船が中国の船に襲撃されて、漁獲物や漁船の機材を奪われる事件が起きています。

 日本近海も対岸の火事ではありません。前編でも紹介しましたが、コロナ禍が広がりを見せた今年2月以降、尖閣諸島周辺に中国の公船が去年を大きく上回るペースで侵入しています。

 各国がコロナ禍の対策に追われて対外的な対応力が低下し、相対的に中国の方が力関係で上位だとみるや、自身の「国内の延長」と考える場所へと手を伸ばしてくるのです。

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京都大学名誉教授の中西輝政氏 ©︎文藝春秋

本性2:徹底した「ご都合主義」

 広大な国土と人口を誇る中国でも、周囲の国に対しいつも力関係で上の立場をとれるとは限りません。その際に現れるのが、徹底した“ご都合主義”ともいうべき便宜主義に基づく「原則外交」です。

 自身が下位に甘んじなければならない状況下では、それを覆い隠すために儒教、共産主義、民族自決理念、人類共同体論と、都合良く時々の「イデオロギー」を利用する。一見、原則や建前を非常に大切にしているようにみえるのですが、そこに一貫性はありません。本音は「力の論理」で動いていますから、戦略的に「枠組み」を整えているだけ。本質は非常に現実主義的なのです。

 だから、中国にはダブルスタンダードとも思える言動が多い。社会主義体制を維持しながら「改革開放」を唱えて市場経済を導入していることはその代表例でしょう。また、言葉それ自体が「ダブルスタンダード」だともいえる「一国二制度」も一例です。

 香港、マカオの返還、そして中台の統一を狙って、この言葉が生み出された1980年代、中国はまだいまほどの力がありませんでした。そこで指導者・鄧小平が持ち出したのが「一国二制度」。自分たちのそれまでの立場と矛盾するイデオロギーでさえも利用するのです。

中国の最高指導者だった故・鄧小平氏 ©︎文藝春秋

 ところが、これはあくまで自分が力関係で下位に甘んじている間に用いられる、当座の措置に過ぎません。実際、経済力を身に付けた現在の中国は、香港に「国家安全法」を導入して、「一国二制度」という自分たちが持ち出した理念を放り投げようとしているのは、何よりの証拠というべきでしょう。まさに中国の徹底した便宜主義という「本性」を示す好例です。

 鄧小平の言葉とされる「韜光養晦(とうこうようかい)」で表されるように、これまで中国は“爪を隠し時期を待つ”姿勢で国際社会と付き合ってきました。あくまで根本には力関係の計算がありますから、自己の勢力が強くなれば理念は捨てられてしまう。しかしそれが、あまりに不誠実に見える振る舞いを生んでしまうので、結局、周囲からより強い反発や抵抗を生じさせ、自らの覇権も早期に挫折するわけです。