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 僕の話をすれば、出産前はかなり調べて知識をつけていたと思います。でも、実際には理論武装して、どうにかなるような甘いものではなかった。初めての子の時は「産褥の6〜8週間を空けておけばいいんだな」と産後2カ月後から仕事量を戻していましたが、妻の回復に時間がかかり計画は破綻。仕事を減らしたにもかかわらず全く時間が足りず、仕事で何かを成し遂げたいという思いがそこまで強くない僕でさえ「こんなに仕事ができなくなるなんて」とショックを受けました。

 でも、このポンコツ化は不可避なプロセスで、男性が自分にコントロールできないものがある、ということをしっかり受け止めないと、子育てにコミットする父親にはなれないと思います。この事実を知らずに子どもを支配・コントロールしようとする父親になってしまうほうが最悪なんじゃないでしょうか(最近、受験などにおいて子どもの成績を仕事同様に管理しようとするパパを“エクセルパパ”と呼ぶことを知りました。子どもや子どもの成績をコントロールできると思っている、なんて教育虐待にもつながる危険な価値観だと思います)。

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 正直、子育ては楽しいことばかりではなくてイライラすることも多い。でも、物事を思い通りに進めて、より良い成果を出すこととは違う価値があることを知るはず。解決策は自分が変わることです。育児は長期戦なので、その挫折は早ければ早いほうがいい。もし、あなたが仕事ができる男性ならなおさら、その落差は大きいかもしれない。でも、取り乱し慌てる余裕のないあなたは父親になろうと進化している姿だと思うのです。

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 さらに一言!

「いつか中年になる僕たちが今すべきは仕事より子育て!?」

 ところで、僕は今年45歳になります。この本を読むあなたが30代と仮定してちょっと先輩風を吹かすと、きっとあなたにも「中年の危機」はやってきます。元気なうちはピンとこないと思いますが体力も露骨に落ちます。身体的変化もさることながら頭の回転がどう考えても遅くなってくる。この衰えた肉体と頭脳であと20年どうやって働いていこうかと考える、あぁ、これが「中年の危機」なのか、と思い知る。僕の場合、救いになったのはすでに妻と2人で育児・家事をしていくために働き方を見直していたことでした。出産は、今後の働き方を見直す絶好のチャンスなんです!

(【続き】「お前が産むの?」 わずか6%……日本のパパの育休取得率はどうすれば上がるのか? を読む)

田中俊之さん 大正大学心理社会学部准教授
1975年生まれ。2008年博士号(社会学)取得。
男性学の第一人者として、新聞、雑誌、ラジオ、ネットメディア等で活躍している。2人の男の子のパパでもある。