淘汰される対象はホテルや旅館だけではない。ホステルの看板で急成長した簡易宿所や、18年に新法が施行され、設置数を伸ばしてきた民泊のような小資本の施設にとっても、2~3年という我慢の時間は死亡宣告をされたに等しい。実際に民泊件数は20年5月には前月比で減少に転じている。
そうした意味で今回のコロナ禍は、インバウンドの急増や東京五輪の需要を当て込んで、雨後の筍のように続々と新築ホテルを建設してきた宿泊業界に冷や水を浴びせる結果となりそうだ。しかし考え方を変えてみれば、今回の騒動で一部「無理筋」で進出してきた有象無象が退場することで、業界としては再出発するのに良い機会になったともいえるのではないだろうか。
ビジネスパーソンの出張も激減か
ポスト・コロナにおいて宿泊業界が再出発をする際に、むしろ気を付けたいポイントは宿泊需要の変化だ。コロナ禍では、多くの企業で出張を問い直す動きが顕在化しているのだ。
オンライン上での会議を余儀なくされた多くの企業では、逆に社内会議程度であれば、十分できるという認識を持つに至った。本社と支社、あるいは子会社間の会議では、これまで互いが出張をして顔を合わせてきたのが、Zoomで済ませるようになる。すると、出張そのものが削減される。
これはビジネスホテルにとっては相当の痛手になりそうだ。ただでさえ、今後の日本は人口減少の影響でビジネスに携わる人の数が減少すると予想されているのだ。
リゾートホテルは富裕層の予約が戻ってきた
シティホテルは宿泊客に加えて宴会客が消滅し、婚礼の延期やキャンセルが連続して阿鼻叫喚状態だ。シティホテルはもともと、人員を多く抱えている。コロナ禍による移動の自粛や宴会の消滅が長引くようになれば、財務体質の弱い地方の老舗ホテルなどが経営危機に陥る可能性が大きい。だが、大手のホテルは本業とは別にオフィスビルなどを併設しているところも多く、コロナ禍が収まるまでの冬ごもりはできそうだ。
またリゾートホテルなどは、一時閉鎖していたところも7月以降順次再開し始めている。高級リゾートなどでは、かなり予約が取れているホテルが多いとも聞く。海外旅行に行けなくなった富裕層が予約しているからで、都会の「密」を離れてリゾートでのんびりしようという需要が一部顕在化しているようだ。
おそらくこの2、3年は冬の時代が続くかもしれないが、外の人間から見れば、この期間淘汰される宿泊施設の中から、優良な資産を手に入れるチャンスでもある。すでに一部のキャッシュリッチな企業や投資家は、倒れそうなホテルや旅館の不動産や運営会社そのものを狙い始めている。屍はきれいにお掃除され、再びお化粧直しされて数年後に登場する。世界は続くのだ。どこまでも。