「愛の不時着」とともに、日本の韓流ドラマブームにふたたび火をつけている「梨泰院(イテウォン)クラス」。このドラマを観た日本人なら絶対に気になる「8つの疑問」について、前編に引き続き解説していく。
(*以下の記事では、ドラマの内容が述べられていますのでご注意ください)
■Q5 トランスジェンダーは、韓国で本当に差別を受けるか?
主人公パク・セロイ(パク・ソジュン)が経営する「タンバム」で働く仲間たちは、韓国社会でいわゆる「主流世界」に編入できなかったアウトサイダーたちばかりだ。
大学進学率が70%に近い学閥社会で、中卒で前科持ちのセロイ、反社会性の人格障害(ソシオパス)で周囲と交わることができないチョ・イソ(キム・ダミ)はもちろん、巨大飲食チェーン「長家(チャンガ)グループ」を率いるチャン会長(ユ・ジェミョン)の婚外子、チャン・グンス(キム・ドンヒ)も最初から後継候補から外れて、家族とは疎遠となった存在。
さらに、ほかの従業員も、ヤクザ出身だが心だけは温かい前科持ちのチェ・スングォン(リュ・ギョンス)、アルバイト募集をみて現れた英語を全く話せない韓国人とギニア人のハーフ、キム・トニー(クリス・リヨン)、そして元工場勤務で、同僚にさえ自分の性アイデンティティを公開できないトランスジェンダーのマ・ヒョニ(イ・ジュヨン)と、みなエリートとは程遠いメンバーだ。
この中でも、韓国社会でもっと苦しい立場はマ・ヒョニかもしれない。LGBTに対する韓国社会の包容力は、世界的にも非常に低いからだ。ドラマの中でも、調理を担当するマ・ヒョニに対して、「だから包丁さばきが大胆だったのね」などと差別的な噂話をされたり、女子トイレから追い出されたりするシーンも出てくる。
2019年のOECD報告書によると、韓国の「同性愛に対する受け入れ度」は2.8点で、36カ国のうち4番目に低い。OECD平均は5.1点で、日本は4.8点だった。韓国より受容度の低い国はトルコとリトアニア、ラトビア。韓国がこのように同性愛の受け入れ度が低い理由は、伝統的な性別ごとの役割を重視する保守的な認識が残っているためだろう。
実際、関連するようなニュースも相次いでいる。例えば2020年1月に明らかになった、男性として入隊した兵士が休暇期間中に性転換手術を受け、女性兵士としての服務を希望したケースだ。兵士は女性兵士としての服務を認められなかったばかりか、強制的に除隊を命じられた。兵士は処分を不服として請求を起こしたが、軍の審査では主張が認められなかった。さらに、2020年2月には、韓国の名門女子大である淑明女子大学校の法学部に合格したトランスジェンダーが在学生たちの猛烈な反対で入学をあきらめたというニュースがあった。
ドラマの中で、タンバムの仲間たちは、マ・ヒョニの個性をそのまま認め、女性や男性ではなく、同僚として受け入れてくれる。この現実社会と異なる自由さこそ、いまの韓国の若者が目指す「開かれた社会」なのだろう。