新型コロナウイルスがいまだに世界で猛威をふるい続けている。国によって、その対応策はさまざまで、ウイルスの封じ込めに成功しているように見える国もあれば、そうではない国もある。

 世界各国は、従来からどのような体制で「毒」からの防衛に取り組んできたのか、毒性学の世界的権威アンソニー・トゥー氏による新著『毒 サリン、VX、生物兵器』(角川新書)から、事例とともに紹介する。

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悠長な日本人

 さて、化学兵器や生物兵器というと、それらをいかにして戦争やテロに使うか、ということを思いがちである。たしかに、その点も重要であるが、表裏一体をなすものとして、これらの兵器をいかにして防御するか、という点も非常に大事である。

閑散とした日本の空港(写真はイメージ) ©iStock.com

 しかし、この点はほとんどの国であまり考慮されていないようだ。その好例が日本だろう。日本の周りには軍事衝突のリスクが散在しており、いつ何時、核・生物・化学兵器で日本が攻撃されてもおかしくない。私が日本に行ったとき、あるアメリカ陸軍の方と話す機会があった。彼は「日本の周りは敵が多く、いつでも日本に侵攻することができるような状態であるから、日本人はみな生きた心地がしないだろう」と話していた。それに対して、私は「日本人はみなのんびりして天下太平を享受しており、日本が危ないと思っている人は一人もいない」と返しておいた。

 現実に、日本の周辺国は、日本を標的にしたミサイルをいつでも飛ばすことができるような体制になっている。そして、その弾頭には核兵器・生物兵器・化学兵器が充填されているのである。しかし、日本のみならず、どの国も一般市民がそれらの災害から身を守るための設備は見当たらない。私の生まれた台湾は日本以上に危険な状態にあるが、軍事的には対応策がある一方で、市民を守る設備は皆無である。

教会の地下を活用するスウェーデンの民間防衛

 そのような中で、私が感心するのはスウェーデンだ。私が見たところ、NBC(核・生物・化学兵器の総称)に対して準備が一番されている国だと思う。

©iStock.com

 スウェーデンの国防省主催の化学・生物兵器の防衛に関する学会は、世界で一番権威のある学会である。私はよくこの学会に出ており、また一度特別講演者として呼ばれたことがあった。その際特別に、ストックホルムの近郊にある、国防省管轄の対NBC防衛施設を見学させてもらった。これは軍の施設であるが、一部市民も収容することができる。小山の中に造られており、その中でおよそ60日間生存できるような設備が整っている。要塞内には、大型の発電機があり、電気は自己発電が可能である。また、水をろ過するための設備や除染のためのシャワー室なども完備されている。