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「いつも親分の隣に座っている男が刑事?」ヤクザを知り尽くした“伝説のマル暴捜査員”がいた

2020/07/12

genre : ニュース, 社会

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義理が通じなくなった「警察とヤクザ」の関係

 暴力団にとって「義理事(ぎりごと)」は欠かすことが出来ない重要な行事であることはいつの時代も変わらない。

 各組織で葬儀などがあれば多額の香典を包んで焼香に訪れ、跡目を継承した組長の襲名披露や刑期を終えて出所した組員の放免祝いなども同様だ。こうした法事や慶事に招かれた場合に、欠席することは義理を欠くことになり許されない。

 そのため、かつてヤクザと警察の間でそれなりのパイプがあった時代には、義理事の際には逮捕状が出ていても執行しないという不文律があった。

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山口組総本部に家宅捜索に入る警視庁の捜査員ら(2018年10月、神戸市) ©時事通信社

「かつては、逮捕を予定している幹部の所属する組織の新親分が襲名披露を開催する時などは、その幹部に『無事に終わったら、翌日には必ず出頭して来い』と伝えておくと、約束通りに出てきた。警察側が義理を欠くことがなければ、相手も義理を欠くことはなかった」(前出・ベテラン捜査員)

 しかし、「今では、逆に義理事こそ逮捕のチャンス」(同前)だという。

「いま、義理に期待していたら逃げられてしまう。最近はむしろ、義理事が開催されるとの情報が入って、捜査対象となっているヤクザが出席するとなれば、義理事の会場近辺で逮捕状を持って待ち構える。ヤクザにとって義理事は欠かせないから、必ず姿を現す。そこで逮捕する。最も確実な方法だ。義理事が終わるまで、などと悠長なことは言っていられない。まして『義理事が終わったら出てこい』なんていう牧歌的な話は、今となっては全くない」(同前)

弘道会の「3ない主義」

 警察と暴力団の関係が決定的に変化したのは、1992年に施行された暴力団対策法がきっかけだったという。

 かつて暴力団事務所には表に看板が掲げられていたが、暴対法施行後は多くが撤去され、事務所内の構成員の名札も外された。そして何より、事務所内に、視察担当も含めて警察関係者を全く招き入れなくなった。

 というより警察を事務所に入れないどころか接触さえしない、ましてや情報は出さないという姿勢に変わった。

 こうした方針を鮮明に打ち出したのが、6代目山口組組長の司忍、若頭の高山清司の出身母体である中核組織の弘道会だ。「警察に情報を売らない、付き合わない、事務所に入れない」というのは、弘道会の「3ない主義」として業界では知れ渡っている。

 弘道会系組織では一時期、警察がガサ入れの際に家宅捜索令状を示しても事務所の玄関を開けようとせず、機動隊員たちが門や玄関を電動ノコギリで破壊して捜索に入る、といったことが毎度のことだった。

(写真はイメージ)©iStock.com

「ある時、門を破壊して捜索に入ったところ、後日、修理代金の請求書が送られてきた。その場でゴミ箱に捨てたが」(前出・神奈川県警元捜査幹部)