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「盗めるアート展」の一部始終 200人がつめかけ、開始1分で10作品がすべて盗まれる

“盗まれた”作品の一部はメルカリで出品も

2020/07/11

genre : アート, 社会

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ギャラリー内では譲り合いの場面も

 開催場所となった「same gallery」は今年3月にオープンしたばかり。運営するのは写真家や編集者などが集まる10人グループ「same」。今回の主催者である長谷川踏太(とうた)さんは同メンバーに所属するクリエイティブディレクターだ。

「SNSなどで話題になっても、深夜の開催時刻前にこんなに人が集まるのは想定外でした。人が道路に溢れてしまい危険だったので、予定より早くオープンせざるを得ない状況でした。時間通りに来てくれた方々には本当に申し訳ありません」(長谷川さん)

レセプションパーティーが始まる前のギャラリー。今はなき作品が見える
注意書きも

 アート泥棒で埋め尽くされたギャラリー内は、作品の所有者をじゃんけんで決めるなど、譲り合いの場面が見られたと話す長谷川さん。また、混雑する中でも落とし物が届けられたり、備品を持ち帰った人から「作品じゃないので返す」と連絡があったり、マナーある態度を感じたそう。

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「あまりに一瞬の出来事で、ゆっくり作品を見てから盗んでもらう時間を作れなかったのは残念です。メルカリで作品が販売されるのは予想していましたが、展示とは関係のない贋作の出品や、値段の付いていなかった展示品に適正価格がついていく現象は想像していませんでした」(長谷川さん)

「盗まれる体験はなかなかできない」

 同展覧会はギャラリーとして初の展覧会。当初は4月の開催を予定していたがコロナ禍で延期に。6月の再告知ではSNSを中心に盛り上がりを見せ、「緊急事態宣言下で文化的なイベントへの欲求が高まっている」と長谷川さんは感じたそう。

「アートと観客の関係性には一定の距離があるが、盗むというテーマで別の付き合い方を提案した。観客にとって、盗みに来るのと鑑賞では捉え方が違うだろう。作家側にとっても盗まれる体験はなかなかできない。作品に変化が起こると思った」(長谷川さん)

作品が盗まれた後のギャラリー。監視カメラの写真(same gallery提供)

 事前に「盗む作品は1組につき1点限り」「他のアート泥棒と譲り合う」など近隣住民への安全面に配慮した10のルールを設定していたが、現場では混乱が生じた。

「性善説でルールを設定したが、入場料を取るなど仕組みを考えるべきだったか……。企画のニュアンスが変わってしまうので難しい。

 コロナ禍のため、レセプションパーティーでは換気を心がけ、入場制限を行ったが、本展ではコントロールが効かなかった。今後、同じテーマで開催する場合は仕組みとオペレーションをきっちり考えたい」(長谷川さん)

 同ギャラリーでは「same」メンバーが今後も企画を行う予定。都内でも外れに位置するギャラリーのため、できるだけ面白い展示を考えていきたいという。