アート作品を来場者が盗む「盗めるアート展」が、「same gallery」(品川区)で7月9日23時35分頃に始まった。20代~30代の若者が約200人集まった。
当日の現場の様子と、展覧会のテーマや作品への思いを主催者や作家にうかがった。
八王子市や三鷹市からの来場も
本来であれば7月10日の0時から開始するはずだった今回の展覧会。人が続々と集まり道路に溢れてしまう様子に、主催者が来場者の身の危険を案じ、開始時刻を20分ほど前倒しした。
開場の準備をしようとスタッフが電気に手を伸ばした時、来場者の一人がギャラリーに足を踏み入れた。その瞬間、約40平方メートルの会場にどっと人が詰めかけた。押し合いへし合い、盗んだ作品を頭上に掲げる者、胸に抱きしめて人波をじっと耐える者、なんとか作品を手にしようと人波をかき分ける者で現場は溢れた。ギャラリーを揺らすようなドンドンという激しい物音が、道路を挟んだ向かい側にも聞こえるほどだった。
約1分間ですべての作品が盗まれ、会場は10分間ほど開場して終了。警察が駆けつける事態となり、混乱は0時を過ぎても続いた。
参加者は1時間前から集まり始め歩道に列をなしていた。声をかけると、20代から30代の学生や会社員が中心。中には八王子市や三鷹市から訪れ始発で帰ると決意を見せる人や、マスクを被りコスプレを楽しむ人もいた。快盗戦隊ルパンレンジャーの格好で0時頃に到着した会社員(33歳・男性)は、「もうすべて盗まれていた。レセプションパーティーで『モナリザを盗んでみたい人の為の』に目を付けていたのに残念だ」と口にした。
一方、作品を手にしたアート泥棒たちはどうしたか。作品を取られまいと現場を走り去る者が多い中、会社員Mさん(27歳・男性)がインタビューに応じてくれた。
「ニュースやSNSで展覧会を知って都内から車で駆け付けました。入口近くに並んでいたので、先頭を切って入場。作品を取ったら隠すように抱き込み、壁際で人の波が引くまでじっとしていた」
盗まれる前の作品を見ることができたのは同日18時に開催されたレセプションパーティーの間だけ。会場には企画の趣旨を理解した現代アーティストとクリエイターら10グループが1作品ずつ展示し、幼い子ども連れの家族などで賑わった。
家族で訪れた会社員(59歳・男性)は、「テレビで告知をみて、近所だし面白そうだと思って来た。本当は盗み開始時刻に来たかったな。作風は多様性にあふれていて、面白い。企画者の意図通りだと感じた」と話す。