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「死」を取り巻く釈然としない3つの疑問

 朴市長はこの世を去ったが、彼の死をめぐる論争は今も続いている。最も大きな話題となっているのは追悼式についてである。

 彼の死亡が発表されるとソウル市は、ソウル市長としての追悼式(ソウル市葬)を5日間に渡って行うという方針を示した。市民たちの間には「不名誉な理由で死を選んだ人の追悼式を市民の税金で、しかも通常よりも長い5日間も行っていいのか」という反発の声が上がった。

 政界では「弔問」をめぐって世論の目を気にしている様子がうかがえる。朴市長の所属政党である「共に民主党」の党員らは「理由が何であれ最後の礼儀として弔問に行く」と表明したが、一部野党の政治家たちは「被害者への配慮から、セクハラの加害者の追悼式にいくのは適切ではない」と不参加を宣言する者もでてきている。

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朴市長は韓国のセクハラ、性暴力問題に長年尽力していた ©AFLO

 そして、彼の死をめぐっても、釈然としない点が少なくない。

 第1に警察が彼の「死因」を発表しないという点だ。警察は遺族との協議のうえ発表しないことを決めたというが、公人であり彼ほどの重職につく人物の、しかも、ここまで世間の注目を集めた死について、医学的な死因さえも明らかにしないというのは異例中の異例だ。これまでに伝えられているのは、「ネクタイで首を絞めたという」といった伝言レベルの情報のみである。

 第2に、死亡が確認された時間や失踪後の足取りが曖昧な点だ。

 警察発表によると遺体が発見されたのは深夜0時頃。だが、朴市長のツイッター等のSNSアカウントはこの発表時間よりはるか前に全て閉鎖された。政治家の場合、秘書や職員がアカウント管理を行うケースが多いのだが、なぜ、遺体も発見されていないのに慌ててSNSを閉鎖したのか。納得のいくような説明は見つからない。遺体発見時間よりも3時間ほど遡った午後9時頃から記者たちがソウル大学病院応急室の前に押しかけていたというのも不可解な点だ。

 そして、自宅近くの防犯カメラに映った画像こそ公表されたが、その後10時間以上の移動経路が不明なままなのだ。携帯電話の信号履歴からフィンランド大使館周辺にいたと推測されているが、大使館周辺なら設置されているであろう防犯カメラの画像は公表されていない。さらに、移動にはタクシーを使ったとされるが、そのタクシーに関する情報もない。今時の韓国のタクシーにはほとんどドライブレコーダーがついているのに、なぜ調べないのかという声も上がっている。