「2011年3月16日、東日本大震災の発生からわずか5日後に天皇(現・上皇)は約6分間に及ぶ異例のビデオメッセージを出しました。未曽有の大災害に動揺する国民に直接語りかけたのです。あの時の天皇の『おことば』に励まされた人も多かったのではないでしょうか。

 一方、このコロナ禍において、昨年5月に即位した今上天皇は、今のところ、国民に広く語りかけるメッセージを出しておらず『沈黙』を保っています」

 こう語るのは、政治学者で天皇制を研究する原武史さんだ(「文藝春秋」8月号「天皇と雅子皇后はなぜ沈黙しているのか」)。このコロナ禍において天皇や雅子皇后は「沈黙」を保っている。

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天皇皇后両陛下 ©時事通信社

宮内庁HPにひっそりと掲載された「ご発言」

 もっとも、宮内庁のホームページを見れば、天皇や皇后の「新型コロナウイルスに関するご発言」を見ることはできる。だが、これらは4月10日に行われた尾身茂新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長(当時)の「ご進講」と5月20日に行われた大塚義治日本赤十字社社長らによる「ご進講」の際に、この二人に対して行った「挨拶」部分をホームページ上にアップしたものだ。

「そもそも多くの国民は、わざわざアクセスしないとみられない『ご発言』を知らないでしょう」

 原さんはこう語る。

 この国難とも言えるコロナ禍において、天皇や皇后から国民を励ますような力強い言葉が今のところ聞こえてこない。

原武史氏(放送大学教授) ©文藝春秋

「私自身は、(天皇の)ビデオメッセージが持つ『政治性』に関して、批判的に検証している立場です。

 しかし、天皇がひとたびそうしたメッセージを出せば、イギリスやオランダと同じように、国民は励まされ、歓迎する空気が生まれるのも間違いありません。その意味で、天皇の『おことば』を求める声が高まれば、例えば即位から1年になる5月1日にメッセージを出す可能性があるのではないか。4月下旬の雑誌の取材で、私はそう答えました。この予測は外れましたが」

 なぜ「沈黙」が続くのか。原さんは、天皇がここまでビデオメッセージを出さなかった理由について、二つの可能性を指摘する。