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“非現実”を演じてきた山﨑賢人が“等身大の人間”に…… 映画『劇場』が「コロナ時代の傑作になりうる」3つの衝撃

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 個人的に「2020年に目にした映画の中でナンバーワンの作品」と強く推したい映画が遂に公開された。当初は、4月17日に公開が予定されていたものの、新型コロナウイルス蔓延に伴う緊急事態宣言の影響で公開延期となっていた芥川賞作家・又吉直樹原作、行定勲監督、山﨑賢人×松岡茉優出演の『劇場』。演劇の世界で夢を叶えようと足掻き続ける脚本家兼演出家の永田(山﨑賢人)と、彼を献身的に支え続ける恋人・沙希(松岡茉優)の日々を描く映画だ。

「お笑い芸人」という道を選んだ又吉直樹だからこそ描ける世界観

 思い通りにいかない現実に直面する2人を見ていると、夢を追うことのリスクや覚悟、誰もが青春時代において通るであろう葛藤の数々を思い出す。私自身、劇中で永田が絶えず自問自答する「いつまでもつだろうか」という言葉には心当たりしかなかった。具体的な努力もせず、両親に寄生しながら生きていた20代の日々の中で常々思っていた想いを吐き続ける彼の姿は、在りし日の自分そのものであったのだ。

映画『劇場』では山﨑賢人と松岡茉優が主演を務めている ©Getty/文藝春秋

 夢を抱く者ならば、かつて夢を抱いていた者ならば、夢と共に何かしらの負い目や後悔をその身に宿す者ならば、思い当たる節が多過ぎて、胸打たれるものがあるに違いない。それも、原作者である又吉直樹が“明確な成功の手立てやゴールが見え辛い”お笑い芸人という道を歩んできたからこそのものだろう。

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 そして、何よりも弱さやズルさを持った不器用な永田という役を山﨑賢人が演じていることに、この作品の1つの魅力があると思う。

“非現実”を演じてきた山﨑賢人が“等身大の人間”に

 25歳にして既に20本を超える映画に出演し、その殆どにおいて主演を務めてきている彼だが、良くも悪くも「山﨑賢人=漫画原作の主人公」という印象が根付いてしまっている事実は否めない。過去の出演作品や役柄を振り返ると、『四月は君の嘘』(‘16)で演じた元天才ピアニスト、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(‘17)で演じた特殊能力を持つリーゼントの高校生、『キングダム』(‘19)で演じた天下の大将軍を目指す奴隷の少年など、漫画を原作とする作品や特異な役柄がその殆どを占めている。

山﨑賢人 ©Getty

 無論、漫画原作であろうと高く評価されている作品は無数にあるのだが、実写化された二次元のキャラクターは個性が際立ち過ぎてしまう分、俳優としての技量を推し計る上での妨げとなってしまうことはある。

 しかし、今回の彼は一味違う。映画『オオカミ少女と黒王子』(‘16)では、「俺以外の男に尻尾振ってんじゃねーよ」と現実離れした言葉を堂々と言い放つ“ドSな学校一のイケメン”を演じていたが、『劇場』で演じている永田は、僕たちと何ら変わらない一般人。むしろダメな部分を多く有した等身大の人間で、途方もない夢を持ちながらも努力を怠り、ついつい楽な方へと流されてしまう。

 漫画原作のキャラクターが持つようなヒロイックで個性的な特徴など何一つ持ち合わせていないのだが、それこそが良いのである!