圧倒、のひとことだ。
作品によって展覧会場を自分色に染め上げようというのは、表現者なら誰しも狙うところ。それはアーティスト・鴻池朋子も同じだが、その徹底ぶりというか没入ぶりが桁外れなのである。自分の色に染めるどころか、まったくの別世界をつくり上げてしまっている。
ふだん私たちの暮らす「いま・ここ」とは明らかに異質。そんな不思議空間でしばし遊べるのが、東京・アーティゾン美術館での「鴻池朋子 ちゅうがえり」展だ。
知らない集落へ連れていかれたかのよう
ほとんど壁を立てていない大空間のあちらこちらに、作品が散りばめられている。見たこともない形態の生き物が描かれた絵。竜巻なのかエネルギーそのものを表したのかわからない抽象的な連作画。獣の毛皮をいくつもぶら下げたスペースもあれば、円形に配された襖にキラキラ輝く石が埋め込まれているのも見える。
さらには山脈や湖を模したオブジェもある。鴻池が記したのであろう言葉がほうぼうに掲げられていたり、奥のほうには映像を流している一角も見つけた。
鴻池朋子の作品群で、場が埋め尽くされている。けれどその場に身を浸していると、展示品を鑑賞している気分にはならない。ここがずいぶん昔から続くひとつの集落で、自分は何かの弾みに迷い込んでしまったかのように思えてしまうのだ。物語の世界にいきなり放り投げられてしまったかのような……。