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小川 特に台風19号の被害は甚大でした。「ススキの原一の湯」一帯は停電になりまして、真っ暗な中、施設が浸水しないように従業員が人力で水をかき出してくれたんです。あの日、私は塔ノ沢の本館にいまして、ススキの原には駆けつけられずに、ただただ心配するだけでした。……他の現場でも、あの時は従業員みんなに助けてもらったんです。だから今回は、私が彼らのことを守らなくてはと思い、早めに全館休館を決めました。

休館中は何をしていた?

――2ヵ月近くあった休館中は、何をされていたんですか?

小川 幹部と一部間接部門以外の従業員を休みにしまして、私たちは会社運営の見直しをしていました。例えば清掃業務です。これまでアウトソーシングでしたが、このコロナ禍においては従業員でやろうと決めまして、新たに10人~15人を雇って、7月からは自社で清掃することにしたんです。それから、全館の電灯をLEDに取り換えました。まだ目算のレベルですが、総額年間2500万円の経費削減になりました。

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箱根登山鉄道は7月23日からの運行再開を予定している ©時事通信社

 あとは新規採用ですね。今年は15人採用したいので、辞退者も含めると内定を出すのは30名。私も毎日のようにオンラインで面接をしていましたが、今年は買い手市場ということもあり、優秀な人材が集まりました。コロナ禍で実際に箱根まで来てもらうことができないため、オンラインでの説明会や面接を実施した結果、より多くの応募があったのです。

コロナによる損失は5億円ほど

――いまのところ、コロナ禍による損失はどのくらいでしょうか?

小川 4月と5月の収益見込み、合計3億円がまるまるなくなりましたし、その上、営業しなくてもかかる経費もありまして……総額で5億円ほどでしょうか。

――大きな損失ですね。そうした影響も踏まえて、アフターコロナの旅館経営としては、どのようなことを考えていますか?

箱根湯本駅の様子(6月下旬)

小川 先代社長の父(小川晴也相談役)の時代から企業ポリシーとしていた「人時生産性の向上(従業員1人、1時間当たりの粗利益高を上げる)」「低価格で高品質」を今後も継承していきます。私は、前職はサイゼリヤで働いていたのですが、そこでもお客様は“低価格で高品質”を追い求めていらっしゃると実感しました。ですから一の湯も、この路線です。

 私が社長就任時に掲げた目標は、2045年までに一の湯を200店舗にすることです。海外展開も考えています。その支援者を探すために、まずは一の湯の知名度を上げていきたいです。その点では、多数の取材や、色々な事柄に対しての変化をもたらしてくれたこのコロナのピンチを、むしろチャンスだと捉えています。