台湾は加盟国ではないが、この規則にのっとってWHOに中国の問題を通報した。しかし、中国では12月には感染が広がっていたとされるにもかかわらず、武漢市政府からも中国政府からも、すみやかなWHOへの通報が行われた形跡がない。
現時点でも、WHOがこの点を公式に批判していないことにも疑問が残る。なぜならこのIHRの改定は、SARSの流行での中国の情報隠しを受けて行われたもので、今回の事態は「再犯」にあたる可能性があるからだ。
テドロス事務局長の台湾批判
台湾とWHOの関係はさらに悪化していく。今度は、台湾からずっと親中的だと警戒されてきたテドロス事務局長自身が「キレた」。
4月8日、テドロスは、記者会見で台湾を激しく罵った。
「台湾のネットユーザーは私を黒人と罵って、人種差別をしている。もう3か月も続いている。いい加減にしてほしい。十分だ」「台湾外交部も攻撃に加わっている」
テドロスの苛立ちの原因は、おそらくはWHOのコロナ発生に対する仕事ぶりが世界的に評価されていないことに起因するとみられる。
彼に対する辞職を求める署名活動も世界中で展開され、5月時点で100万人を大きく超えている。かつて国際機関のトップに対して、これほどまでに激しいブーイングが響いたことはなかったかもしれない。そうしたストレスを一気にぶつけるようなテドロスの台湾批判は3分間の長さに及んだ。
台湾が抱くWHOへの不信
台湾側も負けていない。蔡英文総統はフェイスブックで「長期にわたり台湾は国際組織から差別されてきた。差別され孤立することがどんな思いなのかは誰よりも知っている」とやり返し、台湾政府は、テドロスへの差別的とされる攻撃も「台湾人をかたった中国人ユーザーだ」と反論した。
こうした対立の背後には、長年にわたるWHOと台湾の確執があることは疑いがない。WHOは台湾のことを疎ましく感じ、台湾にもWHOへの不信感が渦巻いている。
台湾のWHO不信の根底には、2003年のSARSの流行がある。2月26日の産経新聞朝刊のインタビューで、陳建仁副総統はこう述べている。
「SARSの際、台湾は国際防疫の孤児だった。原因、診断法、死亡率、治療法の全てが分からず、世界保健機関(WHO)に病例を報告したが反応はなかった。検体は米国から入手し日本の専門家とも情報を交換した。香港やシンガポールの状況から学んだ。WHOから検体が得られていれば、不幸な院内感染は起きなかった」