2019年12月、武漢で発生した原因不明の感染症は、瞬く間に世界中に広がった。現在では「コロナ禍」とも通称される、新型コロナウイルス(COVID-19)の爆発的な広がりは、今なお終息の気配を見せていない。

 台湾や香港の諸問題に積極的に切り込んでいるジャーナリスト・野嶋剛氏による新著『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)より、台湾の防疫における取り組みを引用する。

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台湾とWHOの対立

 新型コロナウイルスの世界的流行のなかで、台湾とWHOをめぐる問題が国際社会を騒がせる焦点となり続けた。中国の国際機関への影響力拡大、国連不信、冷却化した中台関係など、あまりにも多くの問題がWHO問題には投影されてしまい、その様相は非常に複雑であるので、できるだけ丁寧に状況を整理したい。

 総論としてはっきり言えることは、新型コロナウイルスにより、国際社会が第二次世界大戦以来とも言われる危機に直面するなか、WHOのリーダーシップに疑念が生じ、権威が損なわれた、ということだ。

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 テドロス事務局長をはじめとする執行部が、中国の意向や情報に引きずられ、ウイルスの深刻さを過小評価するなど対応に誤りがあった可能性がある。もちろんWHOとて全知全能ではないので、流行初期の対応のミスがあったとしても、これほどの批判は集まらなかっただろう。しかし、ヒト‐ヒト感染の警告やパンデミック宣言の遅れ、楽観的な情報でミスリードしたことなどは、もし事実であるならば、世界に与えた影響はあまりにも甚大である。

低下するWHOの影響力

 加えて、世界の感染症対策をリードし、信頼を寄せられていたWHOの権威をさらに引き下げたのは、台湾に対するあまりの冷淡さと、台湾排除を求める中国の意向を過剰に尊重しているように見える点だった。

 主権国家の寄せ集めである国際機関は、各国が「信頼」を抱かなければ成り立たない。近年、国連など国際機関の影響力低下が懸念されている。歴史的にWHOを支えてきた西側諸国の関与は、さらに今回の事態で低下し、WHOを中心に形成されてきた衛生問題をめぐる国際協調が崩壊する恐れもある。

 そうさせないためにも、今回、WHOと台湾、中国、米国などとの間で何が起きたのか、しっかりと新型コロナウイルス対策をめぐる事実関係の検証を行い、今後のWHOの改革に生かさなくてはならない。

 米国はWHOに対して、次期会計年度への拠出金を凍結することを表明した。それだけではなく、5月末にはトランプ大統領が脱退を表明した。その背後には、新型コロナウイルスで甚大な被害を受けた米国で、大統領選を控えるトランプ大統領が、責任追及の矛先をWHOや中国に向けたがっているという読み解きもある。

 強硬な米国の措置に対して戸惑いの声が上がる一方、中国以外から強い米国批判も起きていない。それは、誰もが今のWHOには何らかの問題があると感じているからだ。