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2020/07/24

source : 文學界 2020年7月号

genre : ライフ, ライフスタイル, 音楽

この現状は絶対に変えなきゃいけないはずなのに

 全く楽譜も読めないし楽器も弾けない俺がここまで音楽にのめりこめたのは、DJの音楽的敷居が低かったからであることは間違いないのだけれど、それが仇となり、あいつらがお手軽に収入を得たり、お手軽に華やかな舞台で脚光を浴びるための美味しい副業になってしまっているのが、心底悔しい。

 そうやってタレントDJ達へ不満が募ると同時に、それを良しとしているであろう周りの環境にもフラストレーションが溜まってくる。聖域にズカズカと下心のみで踏み込んでくる連中に俺らDJは中指を立ててしかるべきなのに、それもしないどころか、タレントDJに一緒に写真に写ってくれるように頼み、それをSNSにアップしようとしてるプライドのカケラも無いハイエナになり下る連中まで出てくるあり様で落胆する。イベントオーガナイザーやクラブ側も、プロのステージを作っているという誇りがあるようには思えない。お客さんからもらった金額に見合うものを提供しようという誠実さを捨て、デカいつらをした素人達に頭を下げてギャランティを支払い続けているなんて、とても正気の沙汰とは思えない。さっさと愚かなドーピングみたいなやり口から足を洗って、目を覚まして欲しい。こんなことを続けていたら、DJという行為そのものが疑われるし、業界全体の格も信用も落とし続ける一方だ。未来の自分達の為に、この現状は絶対に変えなきゃいけないはずなのに。

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 …という風に考えていたのが、数年前までの俺。たまにラジオなどメディアに出演する機会があったら、毎回うさばらし的にこういう話をよくしていたが、今はすっかり変わった。タレントDJに対してはもう何も思わない。それは、今こうして「文學界」での連載を始めるように、単純に自分自身の活動が少しずつ軌道に乗ってきたから。状況が変わると気持ちも変わる。

 もちろん俺は言葉を扱う仕事を生業としているわけじゃないし、執筆の経験もほとんどない。しかも、よりによって由緒ある「文學界」なんていう文芸雑誌での連載だなんて、身分不相応だと思った。けど、しっかりDJを頑張って成果が出たその先に、こんな思ってもみない光栄な仕事まで出来るような未来が待っていたなんて、素直に嬉しかった。他人への妬み嫉みで押し潰されそうになっていた数年前の自分へ教えてあげたいと思った。

 そしてこの連載の話が本決まりになって、いよいよ1回目はどういった内容のものを書けば良いのだろうかと頭を巡らしているとき、俺はふと恐ろしい事実に気付く。「あれ? 今からタレントDJと一緒のことしようとしてる?」

 数年前に他人に対して放っていた矢が、自分に向けて猛スピードで飛んで来ていた。しかも当時の俺が鋭利に刃物を研ぎ上げて、めちゃくちゃ強力なボウガンを使ってぶっ放した矢なもんだから、それはもう激しく突き刺さった。