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中日・京田陽太が“憧れのヒーロー”鳥谷敬から学んだ大切なこと

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/07/30
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「鳥谷さんどこの球団に決まりそうですか? 中日はありますか?」。2019年オフ。ナゴヤ球場。中日・京田陽太内野手(26)とあいさつ代わりのこんなやりとりを何度もした。

 中日の担当記者になって2年目の私と一番よく話をしてくれているのが京田かもしれない。私の妻が石川県出身という話にもテキトーに流さず付き合ってくれる。ユニホームを脱げば愛車に夢中。納豆は食べないし、甘い物は大好きだけど基本は洋菓子しか食べない。LINEの返事は短めだが、取材には納得いくまで応じてくれる。京田陽太はそんな明るくて素直な青年だ。

 京田は中学時代に「全部かっこいい」というきっかけで、今季ロッテに移籍した鳥谷敬内野手(39)のファンになった。「右投左打」「遊撃手」「中距離打者」は全部自分と同じ。さらに寡黙で鋭い眼光。男前すぎる姿に、アイドルそっちのけでぞっこんになった。

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 昨季限りで阪神を退団してからも常に去就を気にかけた。3月に所属先が決まったときは「自分のことのようにうれしい。グラウンドで早く会いたい」と満面の笑みにサムズアップを決め、帰りのバスへ乗り込んでいった。

鳥谷ファンの京田陽太 ©報知新聞社

2000安打「トリオ」との食事会で学んだ「1試合に懸ける気持ち」

 プロ2年目の2018年。当時はまだ現役だった荒木雅博内野守備走塁コーチ(42)に誘われ、名古屋市内で阪神・福留孝介、鳥谷と4人で食事を共にした。それまで、グラウンドであいさつを交わしていたが間近で話すことは初めて。乾杯しておそるおそる流し込んだビールの苦みは、はっきり言って覚えていない。

「緊張しすぎて自分が何しゃべったかほとんど記憶ないです。だって3人合わせてプロ野球でヒット何本打っているんですか? 軽く6000本以上ですよ。『僕がここにいていいの?』という気持ちと『ここにいて幸せだな』という気持ちが交わって、不思議な時間でした。今こうやって話をしてても鳥肌立ちます」

 その幸せな夢のような時間の中で、はっきりと覚えている鳥谷の言葉がある。「ファンを大事にしよう。僕らにとっては143分の1試合かもしれないけど、試合を見に来てくれるファンにとっては貴重な1試合。その人を喜ばせるプレーをしよう」。憧れの人からもらった金言は、京田の胸に強く響いた。

究極の目標は「遊撃手」として引退すること

 鳥谷は667試合連続フルイニング出場、1939試合連続出場の金字塔を打ち立てるなどどんな時でもグラウンドに立ち続けた。遊撃は二塁とともに内外野の広範囲をカバー。三遊間の深いゴロには地肩の強さも必要になる。複雑な動きはグラウンドで一番。それゆえに体力の消耗や下半身(ひざ、腰)への負担は半端ない。阪神のレギュラーとして10年以上、看板を背負ってきた鳥谷に同じ遊撃手だった京田が憧れるのは必然だった。京田はこう語る。「(鳥谷は)顔面に死球を受けてもフェースガードをして試合に出る。普通はそんなことできない。そういう姿を見ると自分の小さなけがや痛みなんてたいしたことないと思えてしまう」。竜で不動の遊撃手を目指すことが京田の野球人生では不可欠なのだ。

 7月22日の巨人戦(ナゴヤD)の9回無死。岡本の遊ゴロを、定位置から逸脱したありえない深い場所で捕球。素早く一塁へ送球し好プレーでアウトにした。4年目の今季は正遊撃手としてさらなる技術向上に挑戦している。守備範囲の広さ、一歩目、判断力、捕球姿勢。まだまだ努力を惜しまないし、ゴールデン・グラブ賞獲得も意欲をみせる。ただ、タイトルよりも高い究極の目標は現役を引退するまで「遊撃手として試合に出続ける」こと。プロ野球で過去一番多く遊撃手として試合に出場したのは1767試合の石井琢朗氏(現・巨人野手総合コーチ)。その次が鳥谷の1761試合。京田はまだ450試合を超えたばかりだが、そびえ立つ壁の高さが、最大のモチベーションになっている。

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