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中日・京田陽太が“憧れのヒーロー”鳥谷敬から学んだ大切なこと

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/07/30
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自宅にある宝物

 昨季9月の甲子園の最終戦。京田は関係者を通じて鳥谷へグラブを「おねだり」した。阪神のチーム関係者が間を取り持ち、無事に京田の手に渡った。「最高ですよ。いいにおいする」。未使用で型付けはされていなかったが、まぎれもなく本物の鳥谷モデル。6月のロッテとの練習試合(ZOZOマリン)でもらったバットとともに、京田家の宝物としてリビングに飾ってある。宝物を見る度に「鳥谷さんのようなかっこいいプロ野球選手になる」と言い聞かせている。

 憧れの鳥谷さんに近づきたいから、子どもたちの夢も大事にする。試合前のグラウンド上で待つエスコートキッズたちに、片ひざをついてサインを書いてあげている。「来てくれてありがとう。今日は楽しんでね」。頭をぽんぽんとなでる。実はDeNAの選手たちが横浜スタジアムで同じ行動をしているのを見て感銘を受け、始めたことだ。ここだけの話、ドラゴンズのロゴ入り練習球や実使用の打撃用手袋をポケットに忍ばせ、こっそり渡したこともある。

 今では鉄壁の二遊間を組む「マスター」こと阿部寿樹内野手(30)もまねし始めた。今は新型コロナウイルスの影響で、球場でのイベントはほぼ休止。子どもたちとふれあえない日々はさみしいが、その代わりに守備位置まで全力ダッシュは欠かさない。球場に来たファン、テレビの前で応援してくれる子どもへその思いを届けている。

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 今季は特別な思いを背負ったシーズンでもある。青森山田高時代に2学年下だった球友・中井諒さんが、骨肉腫のため4月にこの世を去った。中井さんが使う予定だったグラブを開幕戦前日から使い、本拠地の登場曲には「諒が好きだった歌だから」と、湘南乃風「親友よ」を選曲した。

 球団史上最年少で就いた選手会長の初年度は未曾有のコロナ禍。そして親友の死。まさに激動の中にいる。7月末でチームは両リーグ最速で20敗に到達した。ときに向けられるつらい言葉は、耳にしたくなくても入ってくる。日々振り返れば自分のプレーにふがいなさを感じるときだって、そりゃある。でも苦しいときこそ「鳥谷さんならどう行動するだろう」と考える。どんな時でも動じず、黙々とプレーしてきた先輩の姿を思い浮かべれば、自然に体は突き動かされる。

 京田は2月のキャンプでこう言った。「自分のことはどうだっていい。日本一になれるならゴールデン・グラブ賞を取れなくたっていい。ファンを喜ばせるのは勝つこと。それしかない。欲張りかもしれないですけど僕は143試合全部勝ちたい」。早くコロナよ収まれ。そしてもっと多くの人が球場で野球観戦できるようになってくれ。一人でも多くのファンに、熱い男のプレーを受け取って欲しいから。

「ありがとう沖縄2020」タオルを掲げる京田 ©報知新聞社

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