その日は、江田島市の牡蠣の生産者さんに会いに行って、牡蠣の料理を作るという流れだった。事前にスタッフから「長野さんは牡蠣がちょっと苦手らしい」というのは聞いていた。「たぶん断られるだろうけど、それも面白いから使います」ということで、食べてみてくださいと断られる前提で言おうと思ったら、せっかく作ってもらったのだからと、自ら「食べさせてください」と言ってくれたのだ。
せっかくのオフを満喫する場だと思い、野球の話はあまりしないようにしていた。そんな中、ひとつ印象的だったやりとりがある。一緒に焚き火をしているときに、僕が「焚き火の炎を見ていると落ち着くんですよ。長野さんはそういうのありますか?」と話を振った。すると、長野選手は「僕は夜のネオン街を見たら落ち着きます(笑)」と返してくれたのだ。男気だけでなく、ユーモアもある人だった。
焚き火を見ながら……キャンプ観戦術のすすめ
キャンプの醍醐味は何かと聞かれたら、先ほどもチラッと話に出てきたが、僕は真っ先に「焚き火」と答える。焚き火をやりにキャンプに行っていると言ってもいいくらい、焚き火が大好きだ。そして、焚き火を見ながらラジオで聞く野球中継。これがまた何ものにも代え難い最高の癒やしなのだ。僕の二大趣味を一度に味わえる贅沢なひととき。今はスマホがあれば、どこでも映像が見られる時代なのだが、音だけで想像するっていうのがたまらない。
まず、プレイボールの18時に合わせるために、16時には準備を始める。そう、開門時間と同じだ。キャンプ地は自由席。場所を確保したら、ちゃちゃっとテントの設営を済ませる。続いて、つまみを用意して火をおこす。そして、試合が始まったら、球場に思いを馳せながら、焚き火に薪を焚べる。
キャンプ場というよりも、何もない山とかでするキャンプが好きなので、まわりには誰もいない。点が入ったり、好プレーが出たりしたら、ひと目を気にしなくていいので大声で「よっしゃー!」と叫んだりもする。あとはビールの売り子さえいてくれれば……。
集中しながら聞いているからか、キャンプ観戦した試合は記憶に残っていることが多い。
あれは2015年の最終戦。勝てば3位でクライマックス・シリーズ進出というところで、中日に0-3で負けた試合。これもちょうど焚き火をしながら聞いてた。山梨県の道志村だっただろうか。試合後は本当にしんどかった。負けた悔しさを焚き火で燃やしながら、ひたすら酒を飲んでいた。田中選手の幻の本塁打なんかを思い返したりなんかしていたら、いつの間にか薪を全部使い切っていた。
最近だと6月28日の中日戦。森下暢仁投手がプロ初勝利を挙げた最高の試合を、あきる野市でキャンプ観戦していた。森下投手も素晴らしかったが、なんと言っても堂林翔太選手だろう。インコースの球を、バットを上手く畳んで右中間にスタンドイン。どんな打ち方をしたんだろう、と次の日ワクワクしながら家に帰って、あらためて映像で見て「今年の堂林は本物だ!」と喜んだ。苦労していた選手が活躍する。これほど嬉しいことはない。
今年はなかなか厳しい戦いが続いている。それでも、悲観したりなんかはしない。それこそ、堂林選手が打ってくれさえすればいいとさえも思ってしまう。もちろん、優勝してほしいとは思っているのだが、今は試合があるだけでも幸せなのだ。早く、焚き火しながらラジオ中継を聞きたい。
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