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忘れられないバレンタイン監督との1000本ノック事件

 第一期ボビー・バレンタイン政権が誕生した95年もチーム広報を務めている。忘れられないのは1000本ノック事件だ。ある時、監督と日本の野球に関する議論となった。根性論の話だ。「私は高校時代、何百本もノックを受けてゴロのとりかたを、身を持って覚えました」と話すと一笑に付された。だから「では、やってみてはどうですか?」と提案した。「トライをする」。バレンタイン監督から思わぬ返事が返ってきた。

 ある練習日。1000本ノックが始まった。最初はアメリカら連れてきたトム・ロブソンコーチがノックを打っていたが、手の皮がむけギブアップ。丸山氏自身がノックバットを持った。ファースト、セカンド、サード、ショート。ポジションを変えながら何時簡にもわたるノックは続いた。「行くぞ!」。「カモン」。今までは言葉の壁があったが、不思議とノックをしているうちに心が通じ合えているのが分かった。1000本目を終えると、握手をして抱き合った。そしてバレンタイン監督はニヤリ。「ナンセンスなのが良く分かった」と笑った。

「あれから不思議とチームも調子がよくなった。あれで日本人の心、気持ちが分かってくれたのではないかなあと今では思う。日本流、日本人の魂をね」と丸山氏は遠い昔を昨日の事のように語る。

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 これらの話はロッテ在籍37年間のほんの一握り。丸山氏は語り切れないほどのエピソードを持つ。今年10月で還暦を迎え、球団と共に濃い人生を歩んできた男は、かくして退職の日を迎えた。試合は1点差を逃げ切った。ストッパーの益田直也投手が通算98セーブ目を挙げた。丸山氏は試合をスタンドから見守ると最後はグラウンドに深く一礼をし、思い出の詰まるスタジアムを後にした。

「職員だけではなくみんな暖かい球団。一致団結している。これからもそうであって欲しい」。ロッテ球団について丸山氏はそのように語る。想いは後輩たちに託された。私たちは先輩たちが作り上げてきたこの球団の伝統を守り、魅力を大事にしながら、また次の世代によりいい形で継承していく義務がある。丸山氏の愛したマリーンズをもっともっと素晴らしい球団にしないといけない。その責務を感じた一日となった。

梶原紀章(千葉ロッテマリーンズ広報)

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